日本初!ワインと日本酒が地理的表示(GI)にダブル指定の山梨
山梨といえば、日本ワイン発祥の地。ワイナリー数も日本一を誇ることからワインのイメージが強いですが、じつは日本酒も高く評価されていることはご存じでしょうか。2021年、国が地域ブランドを保護する地理的表示(GI=Geographical Indication)制度において、日本酒がGI「山梨」の指定を受けたのです。
GIとは、特定の地域内で一定の基準や品質を満たして生産されていることを示すもので、海外のワイン「ボルドー」や「シャンパーニュ」などが有名。日本では1994年からスタートした制度で、その土地の気候や風土、伝統的製法などを生かした品質が評価された、いわば国のお墨付きとも言えるブランドの証です。
山梨県では、2013年にワインとしては日本で初めてGI「山梨」の指定を受けており、ワインと日本酒の二つの酒類が指定されたのもなんと山梨が日本初。酒造りに最適な、自然環境にも恵まれた山梨の美酒めぐりへさっそく出かけましょう!
名峰の清冽な水から生まれるGI「山梨」のおいしい日本酒
山梨県は、富士山をはじめ甲斐駒ヶ岳、八ヶ岳など四方を秀峰に囲まれた名水の地。ミネラルウォーターの生産量は日本一を誇ります。日本酒の原料は8割が水。醸造過程でも洗米、吸水、蒸米……と水が一貫して重要な役割を持ち、日本酒造りの土台となっているのです。
GI「山梨」の日本酒は、そんな原料として使用できる水を、南アルプス山麓、八ヶ岳山麓、秩父山麓、富士北麓、富士・御坂および御坂北麓の6水系に限定。標高の高い名峰に降り注ぐ雨雪は、花崗岩や玄武岩などの地層から成る天然の濾過機能によって、適度なミネラルを含む伏流水となります。それぞれの山麓には、その地の名水の特徴を生かして酒造りを行なう酒蔵が点在。GI「山梨」を冠する日本酒の酒造りの現場をのぞいてみましょう。
甲斐駒ヶ岳の伏流水で酒造りを行なう老舗酒蔵「七賢」へ
南アルプス山麓水系、甲斐駒ヶ岳の伏流水を使って酒造りを行なう北杜市の「七賢」は、1750(寛延3)年から続く老舗酒蔵。かつて甲州街道の宿場町として栄えた白州・台ヶ原宿に立ち、十三代にわたって日本酒造りの技を受け継いでいます。立派な出で立ちの建物では日本酒の試飲もできるショップやレストラン、糀糖スイーツを提供するカフェも併設しています。
「白州の水は軟水のなかでも極めて硬度が低く、人間の体液に近い、日本人好みのお水です。できるかぎりこの地で育まれる水と相性のよい原料を使うため、地元で育った『ひとごこち』『夢山水』といったお米を使っています」とは代表取締役社長の北原対馬さん。名水・白州の水を体現できる酒を目指す七賢では、甲斐駒ヶ岳の水と相性のよい、同じ土地で育った米を使うなど、水に含まれるミネラルと原料との相性を追求しています。
工場では伝統の製法を受け継ぎつつ、最高品質を効率的に届けるため最新の機械を導入。「搾りたてのお酒のおいしさや感動を、海外へ出荷しても届けられる酒造りを徹底しています」と自信を見せてくださいました。
七賢では時代に沿って新しい商品も生み出しており、今回は2017年デビューのスパークリング日本酒「杜ノ奏」をいただきました。シャンパン同様の瓶内二次発酵で、シュワシュワとした細かな泡が口の中で広がり、すっきりと甘さも感じられる一品。こちらはショップ「酒処 大中屋」で購入できます。
また、せっかく訪れたなら「行在所」の見学もおすすめ。「七賢」は1880(明治13)年、明治天皇が山梨をご巡幸の際、母屋の奥座敷に宿泊され「行在所」となりました。建物は当時のままの姿で保存されており、天皇ゆかりの品なども展示。由緒ある七賢の歴史も深く知ることができます。
「余裕があれば、周辺の自然も一緒に訪ねてみはいかがでしょう」と提案くださったのは、専務取締役で醸造責任者の北原亮庫さん。七賢の日本酒は、白州の自然との共作。南アルプス・甲斐駒ヶ岳を源流とする清流・尾白川渓谷 千ヶ淵など周囲の自然も訪ねれば、当地の日本酒をより深く味わい、感じることができることでしょう。
七賢 大中屋 北原家住宅
住所 | 山梨県北杜市白州町台ヶ原2283 |
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問い合わせ先 | 0551-35-2236 |
時間 | 9:00~17:00(試飲時間は〜16時30分)※試飲は現在休止中。 |
定休日 | 年始休 |
交通アクセス | JR韮崎駅からバス29分「台ヶ原上」下車、徒歩3分 |
URL | https://www.sake-shichiken.co.jp/ |
世界も認める、ハイクオリティなGI「山梨」のワイン
2013年に日本で初めてお酒のGI認定を受けた山梨のワイン。その魅力はなんといってもクオリティです。GI「山梨」のワインは、県内産100パーセントのブドウを使用。日本固有の品種「甲州」や「マスカット・ベーリーA」など指定42品種から造られ、年10回の厳しいテストに合格したワインのみGIを冠すことができます。そして、海外でも数々の金賞を受賞するなど、高い評価を得ています。
そんな日本を代表するワインの発展は、山梨の名峰が形成する地形と長い醸造の歴史があってこそ。名峰からの水の流れによって作り出される扇状地や昼夜の寒暖差が大きい気候など山梨はブドウ作りに最適な地で、明治時代より進められてきたブドウの品種改良や生産技術向上の研究により、今やブドウの生産量、ワイナリー数とも日本一となりました。県内には90社以上のワイナリーがあり、あらゆる製法で世界でも高く評価される多彩なワインが醸されています。
“自然のまま”の栽培と醸造を行なう老舗ワイナリー「ルミエール」へ
笛吹市にある「ルミエール」は、1885(明治18)年創業の老舗ワイナリー。文明開化の頃、いち早くワイン造りを始めたワイナリーのひとつで、大正時代には宮内庁の御用達にもなりました。ここではワイナリー見学ができ、まずは「甲州」をはじめ「カベルネ・ソービニヨン」などの品種が育つ自社農園を案内いただきました。
「うちの畑は自然農法です。化学肥料は一切やりません。たくさんの虫がいて、鳥が食べに来て、鳥の糞が肥料になる……。多様な生物が共存する、自然に近い環境で育てたブドウが、高品質なワインの土台となっています」とは、代表取締役社長の木田茂樹さん。ルミエールでは、「本物のワインは本物のブドウから」という考えのもと、雑草を除草せず生かした「草生栽培」や、あえて畑を耕さない「不耕起栽培」など、自然に近い環境でのブドウ栽培でワイン造りを行なっています。
そんなルミエールで必見なのが、国の登録有形文化財にもなっている「石蔵発酵槽」。創業直後の1901年に扇状地の地形を生かして造られた、日本初のヨーロッパ型石造り地下発酵槽で、世界的にも珍しい建造物です。果梗をつけたままのブドウを石蔵に入れ、野生酵母で発酵するという自然の状態に近い醸造方法で、現在もこの地下発酵槽でワインが造られているというので驚きです。
「マスカット・ベーリーA」で造られたそのワインは「石蔵和飲」といい、本数限定。イチゴのような香りのある、優しい味わいが印象的です。石蔵発酵槽は見学のほか、年に一度醸造体験とともにワインをいただけるイベントも開催しているので要チェックです。あっという間に完売してしまうほどの人気だそうです。
「ルミエール」では、このほかワイナリー見学で醸造棟や地下セラーも見学できます。ショップやレストランも併設しており、今回、「石蔵和飲」とともに、赤ワインの製法で白ブドウ(甲州)を醸す「オレンジワイン」のスパークリングも試飲させていただきました。
「ルミエール」では、ブドウ品種や製法が異なる6種類のスパークリングワインも展開。豊富な種類のスパークリングワインを醸造しているのは日本では珍しく、数々のコンテストで受賞しています。伝統のワインとともに、新しい製法のワインにも挑戦する「ルミエール」。飲み比べを存分に楽しむことができました。
「2018年、『葡萄畑が織りなす風景』ということで、山梨市、甲州市、笛吹市が日本遺産に登録されました。ブドウ畑が一面に広がる風景は夏には緑、秋には紅葉とさまざまな色があり、素晴らしいです」と代表の木田さん。ワインはもちろん、山梨ならではのブドウ畑の風景も一緒に楽しめば、より山梨の旅が魅力的になるでしょう。
Lumiere Winery(ルミエールワイナリー)
住所 | 山梨県笛吹市一宮町南野呂624 |
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問い合わせ先 | 0553-47-0207 |
時間 | 9:30~17:30 |
定休日 | 年末年始 |
交通アクセス | JR勝沼ぶどう郷駅からタクシー約10分またはJR塩山駅・山梨市駅からタクシー約15分 |
URL | https://www.lumiere.jp/ |
ワイナリー見学
時間 | 14時〜(所要約30分)※平日のみ・前日15時までに要予約。 |
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値段 | 500円 |
- ※3月下旬より再開予定。詳しくはお問い合わせください。
山梨の美食と美酒のペアリングもお楽しみ
美酒が揃う山梨県。日本酒は和食、ワインは洋食という概念にとらわれず、さまざまなジャンルの料理とのペアリングも楽しんでみてはいかがでしょうか。今回いただいたのは、スパークリング日本酒「七賢 山ノ霞」と、スイーツ「山梨県産シャインマスカットにマスカルポーネチーズのムース デラウェアワインのジュレ添え」。日本酒とスイーツ!? と思いきや、すっきりとしたスパークリング日本酒と、甘いシャインマスカットが思いのほかよく合います。
そのほか、キングサーモンとニジマスを交配した「富士の介」と「笹一酒造」の冷酒や、「温泉ワインうなぎ」の白和えをのせた小蕪の信玄蒸しと「勝沼醸造」の白ワインなど、さまざまなペアリングを堪能。「ルミエール」では「甲州ワインは焼鳥の塩と合うんですよ」と代表の木田さんが教えてくれ、これも気になる組み合わせ。家に着いたら、おみやげのワインと試してみようかなと考えながらほろ酔い眠りにつく、満足感いっぱいの帰路となりました。
東京から山梨へは、特急「かいじ」で!
- ※トレたび編集室/編
- ※2022年3月現在の情報です。お出かけの際は各施設にお問合せください。