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2022.12.02旅行「DLやまぐち号で行く 日本遺産『津和野今昔』~百景図を歩く~ 2日間」ツアー密着レポート

今と昔が繋がる、津和野を巡るツアーの魅力とは?

島根県の南西部に位置する津和野町。自然豊かな町の伝統や風情を100枚の絵に描いた幕末の資料「津和野百景図」をもとに「津和野今昔~百景図を歩く」が日本遺産に認定されています。今回、歴史ロマンあふれる津和野の街の魅力を知る、列車も歴史も景観もグルメも大満足な1泊2日のツアーに密着してきました。津和野の魅力あふれるコンテンツの数々をご紹介します。

【1日目】DLやまぐち号と津和野散策でノスタルジーに浸る

新山口駅から貴重なディーゼル機関車「DLやまぐち号」で津和野駅へ


今年2022年は、日本に鉄道が開業して150年、そして新山口~津和野駅間を結ぶ山口線の開通100年という記念すべき年。さらに津和野では、町出身の小説家で知識人としても活躍した森鷗外(もりおうがい)の生誕160年・没後100年を迎える年でもあります。今回の密着ツアーでは、日本遺産にも認定された津和野の町を巡るだけでなく、鉄道ファンに人気が高い「DLやまぐち号」に乗車し、津和野の街を訪れます。

旅の初日となる11月4日、新大阪駅に集合し新幹線で新山口駅に向かいました。新山口駅に到着するとすでにたくさんの乗客に囲まれた「DLやまぐち号」の姿がありました。貨物列車の減少により現存するDL車両はわずかとなった今、現役で走るディーゼル機関車はとても貴重。出発前の限られた時間のなか、ツアー参加者たちは思い思いの角度から車両を撮影。10時50分に出発した列車は、ゆったりと津和野駅に向かいます。

木製の床やブラインド、落ち着いた紺色の座席など、懐かしくもモダンなデザインで細部までこだわりが詰まっていて、旅の特別感も高まります。この日のお昼ご飯は車内で駅弁「SLやまぐち弁当」をいただきました。山口や津和野の郷土料理が詰まった幕の内弁当に「これは津和野でまた食べたいね」「お土産に買いたい!」と、みなさん大満足の様子。

津和野駅へ向かう途中、乗客らが先頭車両や駅舎と記念撮影を行えるよう、途中停車駅では長めの停車時間が設けられました。車内には記念品を販売するブースもあり、お土産にとさっそく購入する人の姿も。ほかにも、車内には国鉄時代に使用していた硬券きっぷや鋏(はさみ)などの展示もあり、乗車時間はあっという間に過ぎていきます。


DLやまぐち号はエンジン音をうならせて走ります

SLやまぐち弁当には岩国寿司やふぐ、長州鶏など沿線の味覚がぎっしり

目的地の津和野駅に到着したのは12時58分。改札を抜けると、キレイな駅舎がお出迎えしてくれます。津和野駅は今年で開業100年を迎えるにあたり、8月に改修事業が完了したばかり。県産のスギや石州瓦が使われた新駅舎には列車の発着風景が見学できる展望デッキも設けられました。駅前にはD51形蒸気機関車も保存展示され、ツアー参加者はあれもこれもと、撮影に大忙し。


さぁ、津和野の旅が始まります!

昔と今がどうして繋がるの? 津和野の町をガイドさんと散策


列車の旅を満喫したあとは、今回のツアーの目玉でもある日本遺産に認定された「津和野今昔~百景図を歩く~」を巡る散策へと向かいます。津和野町は「山陰の小京都」と呼ばれ、津和野城の城下町として、歴史と文化を色濃く感じられると有名。そんな津和野の町を「津和野百景図」という、100枚の絵に描いた人がいました。それが、津和野藩の最後のお殿様・亀井玆監(かめいこれみ)に仕えた栗本里治(くりもとさとはる)という人物です。


津和野百景 第十七図 祇園会鷺舞ひ/写真提供:津和野町教育委員会

津和野百景 第一図 三本松城/写真提供:津和野町教育委員会

「津和野百景図」にはユネスコ無形文化遺産に認定された「鷺舞(さぎまい)」のほか、「津和野城跡(三本松城跡)」「津和野藩校養老館」などの無形、有形の文化財のほか、四季の移ろい、食文化についても描かれています。150年前、写真などがなかった時代にスケッチと記憶をもとに描かれたそれらの絵のうち、約半数は幕末当時のままに残され、今現在も町の風景に自然と根付いているとのこと。

昔と変わらぬ風景や古き良きものを発見し、体感できる津和野の魅力に触れるため、まず向かったのは「津和野町 日本遺産センター」。ここでガイドの永田茂美さんの案内で、「津和野百景図」にまつわるストーリーを解説してもらいました。


永田さんのお話しに熱心に耳を傾けるツアー参加のみなさん。津和野町 日本遺産センターにて

続いて向かったのは「殿町通り」と呼ばれる、古い佇まいが残る、白壁の土塀が続く美しい通り。掘割には花菖蒲(はなしょうぶ)が植えられ、花が咲く時期は一層美しい景色になるそうです。そして観光客に人気なのが、色とりどり、大小たくさんの鯉。町のあちこちに鯉のエサが販売されているので、ツアー参加のみなさんも、あちこちでエサやりを楽しんでいました。

ほかにも、「津和野百景図」と現在の文化財を比べたり、サトイモなど地元の名産品についての豆知識も聞いたところでツアーは一旦解散。ここからはフリータイムで、ツアー特典の「日本遺産 津和野百景 文化めぐりチケット」を使い、町の歴史施設などを探訪していきます。


城下町の面影を色濃く残す町並み

エサやりをしながら、あまりの鯉の大きさに驚きました

まち歩きに便利なチケットを使い、津和野の街をさらに満喫


「日本遺産 津和野百景 文化めぐりチケット」は有効期限内であれば、津和野町内の観光施設やレンタサイクルを何カ所でも利用できる、とてもお得なサブスク型チケットです。ツアー初日にまず訪れたのは「安野光雅美術館」「覚皇山 永明寺(かくおうざん ようめいじ)」。

「安野光雅美術館」は津和野町出身の画家・安野光雅の作品を展示する美術館。『ふしぎなえ』や『旅の絵本』シリーズなどの絵本は今でも世界中で読まれていて、「安野先生が観た津和野の景色が観たくて」と、今回のツアーに参加した人もいるほどの人気です。

「覚皇山 永明寺」は室町時代からの禅宗寺院。歴代の津和野城主の菩提寺で、「森林太郎」と本名で彫られた森鷗外の墓もこちらにあります。いまでは珍しい巨大な茅葺屋根は見応えがあり、とくに今の時期は美しい紅葉が楽しめるとあって、参拝客が後を絶ちません。今回のツアーは紅葉の美しい時期に設定されていることもあって、参加者たちもたくさん訪れていたようです。


安野光雅美術館。館内にはさまざまな安野作品が展示されています

紅葉が美しい覚皇山 永明寺

【2日目】いざ、難攻不落の山城へ

出合えたら超ラッキー。「天空の城」から望む城下町に広がる早朝の雲海


2日目の行程は早朝から始まります。
朝7時、ホテルからバスで向かったのは「津和野城跡」。一番の目的は城跡ではなく、雲海。津和野町は周囲を山に囲まれた盆地のため、晩秋から早春の昼夜の寒暖差が激しい早朝には神秘的な雲海を間近に観ることができることでも有名です。さまざまな気象条件が揃ったときにだけ出現するのですが、残念ながら前日から快晴続きだったツアー当日には雲海を観ることはできませんでした。

標高362mもの霊亀山(れいきさん)に築城されたという津和野城。明治期に廃城となり、いまは石垣のみが残るだけですが、「津和野百景図」で描かれた津和野の絶景を望めるとあって、人気観光スポットのひとつとなっています。

ツアー参加者は麓から観光リフトに乗り、往復2kmほどのトレッキングを楽しみながら本丸跡へ向かいます。この日もガイドの清水徳秀さんが道中を案内してくれたので、津和野城の歴史や裏話などを教えてもらいながら本丸跡へ。紅葉や街並み、石垣櫓など、色んな角度から街の魅力を切り取っていきます。


途中までは観光リフトに乗って

頂上をめざして、みんなで登ります

「城は石垣!」と清水さん。石垣は津和野百景図にも描かれています

山を下り、朝食を済ませたあとはバスで奥津和野といわれる地域にある「国指定名勝 堀庭園」へ。島根といえば世界遺産に登録された石見銀山が有名ですが、津和野には銅山で財を成した堀家という一族がいました。「国指定名勝 堀庭園」はその堀家が主に明治期に造り上げた庭園群です。

江戸期に建てられた主屋にはお風呂や台所のほか、昔懐かしい昭和の家電などが展示。ツアーに参加されていた方は「五右衛門風呂やへっついさんも今となっては懐かしいなぁ」としみじみ。敷地の奥へ進むと、豪華な造りの客殿があり、その建物の前には美しい日本庭園が広がっています。

「楽山荘」と呼ばれる庭園には大小さまざまな石灯籠が並び、紅葉が真っ赤に染まる荘厳な景色が広がっています。参加者たちは庭園に足を一歩踏み入れた途端、「美しいね~」「雲海は残念やったけど、これが観られただけでも来てよかった」と感動しきり。贅の限りを尽くした日本家屋、移りゆく四季の色合いを借景にした庭園の美しさにしばし魅入っていました。


「国指定名勝 堀庭園」の主屋。堀氏は300年この地で隆盛を誇りました

「国指定名勝 堀庭園」の庭園と楽山荘。紅葉が織りなす美しい光景を写真に収めました

「国指定名勝 堀庭園」から徒歩すぐの場所にあるのが「医食の学び舎(旧畑迫病院)」です。
こちらも堀家が築いた、当時としては最先端の医療が受けられたという明治25年設立の私立病院。施設内には昭和初期の病院の様子を復元した部屋や、治療器具の展示などがあり、かつての診察の様子をうかがうことができます。参加者は今では信じられないくらいの太い注射針や視力検査の器具を見て、幼少期を思い出し談笑するシーンも。病院跡とはいえ、賑やかに施設内を見学していました。


畑迫病院は、地域住民に安価な医療を提供するため、堀家15代当主の堀礼造が創設しました

医食の学び舎(旧畑迫病院)では、当時の手術室や暗室、レントゲン室、薬局などを見学することができます

森鷗外の軌跡を辿る、文学と歴史探訪へ


再び津和野町の中心地に戻ると、出発まではフリータイムに。ここでまた「日本遺産 津和野百景 文化めぐりチケット」の出番です。取材チームはチケットを使って、駅前にある「釜井商店」でレンタサイクルを利用。津和野の城下町エリアは幅300m、距離3kmほどのコンパクトな町。自転車を使えば簡単に目的地にたどり着けるので、使わない手はありません。

この日の一番の目的は「森鷗外記念館」「森鷗外旧宅」。駅前から自転車で10分ほど、坂道もなくあっという間に到着しました。
森鷗外といえば、代表作に『舞姫』『雁』などを持つ、明治を代表する文豪。今年は生誕160年・没後100年という節目の年ということもあり、同施設では鷗外文学を盛り上がるための企画展なども開催されていました。館内には鷗外の遺品や直筆の手紙などの貴重な資料を展示。隣接する「森鷗外旧宅」は、鷗外が10歳まで実際に住んでいた自宅を当時の姿のまま公開。軍医や文学博士としても活躍した鷗外の生涯を、より深く知ることができました。


森鷗外記念館には、鷗外が藩校へ通った“通学路”が記された古地図も

森鷗外旧宅。森家は代々、津和野藩の藩医を務めていました

文豪の足跡をたどるように、次に向かったのは「津和野藩校養老館」。「津和野百景図」にも描かれ、森鷗外も幼少期に通った、津和野藩が創設した藩校(学校)です。ほかにも「津和野町郷土館」では貴重な歴史資料を鑑賞。古いものだと、縄文時代のものもあり、津和野の歴史の深さを体感することができました。


近代日本哲学の祖・西周(にしあまね)も通った津和野藩校養老館

吉見・坂崎・亀井の三氏にわたる津和野城主の資料などを展示する津和野町郷土館

津和野に流れる歴史と文化、それを継承してきた人々

「日本遺産 津和野百景 文化めぐりチケット」で利用可能な施設をほとんど制覇したところで、フリータイムは終了。集合場所の津和野駅へ向かうと、思い思いに自由時間を楽しんだ参加者たちも帰ってきました。それぞれの手には、地元銘菓の「源氏巻」や殿町通りに並ぶ蔵元が造る地酒などお土産がいっぱい。

17時27分発の「特急スーパーおき」号に乗車し、一行は津和野駅を出発。参加者は駅や殿町通りの周辺で購入したお弁当を食べるなど、最後までたっぷりと津和野の魅力を堪能していました。列車に歴史、紅葉と見どころ満載だった今回のツアーについて、参加者からいただいたコメントを一部ご紹介します。

~ツアー参加者の声(一部)~

新山口駅から新幹線に乗り換え、新大阪駅などそれぞれの最寄り駅で下車。今回のツアーはここで終わりとなります。

ツアーに帯同する前は「津和野は鯉と森鷗外だけ」なんて思っていましたが、それは大間違い。古くからの伝統を守り、町の人みんなが大事に継承し続ける文化や歴史を目の当たりにすると、津和野の魅力が次々にあふれ出て、1泊2日のツアーはあっという間に終わりを迎えました。

町を案内してくれたガイドさんはもちろん、土産物店や街の喫茶店のオーナーさんも郷土愛に満ちた人ばかりだったのも印象的です。まだまだ掘り下げるところがたくさんありそうな津和野観光。また再訪したいという思いを強くしました。


津和野 町家ステイ戎丁(えびすちょう)


明治23年に建てられた中庭付きの古民家を、町家ステイが楽しめる一棟貸しの宿泊施設として改修。昔ながらの佇まいはそのままに、リビングやヒノキのお風呂、最新型のトイレなどを取り入れ、ゆったり快適に過ごせるような造りとなっています。

宿泊は最大5名まで。食事の提供はありませんが仕出しも可能で、ミニキッチンなどで簡単な調理もできます。間取りが広いのに隠れ家的な雰囲気もあることから、遠方からのリピーターが絶えない、注目のお宿です。

島根県鹿足郡津和野町後田イ66-1
TEL 0856-72-1771(一般社団法人 津和野町観光協会)


  • 提供:(株)日本旅行
  • 文・写真:黒田奈保子
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