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2024.04.19鉄道高山本線(JR東海・JR西日本)大きな車窓で岐阜・富山の四季を感じる絶景路線

下呂温泉に、飛騨…、さまざまな観光地を楽しみたい路線・高山本線(JR東海・JR西日本)

日本全国津々浦々をつなぐ鉄道路線。
そんな日本の鉄道路線は、150年以上の歴史を持ちます。

日常の一部でもある鉄道路線は地域と密接に関わり、さまざまな歴史とともに走ってきました。
通勤・通学で使用するなじみのある路線にも、思いがけない歴史があるかもしれません。
旅の目的地へ連れて行ってくれる路線には、見逃せない車窓が待っています。
さあ、鉄道路線の歴史の風を感じてみませんか?

今回は映画「君の名は」の聖地巡礼でも人気! 北アルプスの山々と飛騨川の渓谷など美しい展望が堪能できる高山本線(JR東海・JR西日本)をご紹介します。

高山本線の歴史

飛騨川の景勝地を楽しめる絶景路線

飛騨川や神通川水系に寄り添い、中部地方の山岳地帯を横断する路線が高山本線です。
岐阜から高山を経て富山に至る、全長225.8kmの路線で、本州のJR線としては唯一となる、全線非電化の「本線」。岐阜〜猪谷駅間をJR東海が、猪谷〜富山駅間をJR西日本が運営しています。
全線非電化とはいっても、とくにJR東海の区間ではハイブリッド気動車HC85系に見られるような最新技術の車両が投入され、電車と遜色ないスピードで運行されています。飛水峡をはじめ沿線に景勝地が多く、山と河川、峡谷の景色を存分に楽しめる絶景路線でもあります。


〔ワイドビューひだ〕が走る第五益田川橋。1930(昭和5)年の下呂駅開業とともに開通した(1990年9月下呂~焼石駅間撮影)

高山本線は、飛騨地方と各地を結ぶ鉄道として、大正から昭和初期にかけて建設されました。
まず、1920(大正9)年に岐阜〜各務ケ原駅間が「高山線」として、続いて1927(昭和2)年に富山〜越中八尾駅間が「飛越線」として開業し、それぞれ順次延伸。1934(昭和9)年10月に飛騨小坂〜坂上駅間が開業して岐阜〜富山駅間が全通し、同時に「高山本線」となりました。

全通した高山本線は、飛騨へのアクセスのほか名古屋周辺から北陸への短絡ルートとしても重宝されます。
1958(昭和33)年11月のダイヤでは、名古屋〜富山駅間は米原経由で7時間以上かかったのに対し、高山本線の準急〔第1ひだ〕は4時間51分。高山本線経由の方が圧倒的に速かったのです。


急行〔たかやま〕は1999年12月のダイヤ改正まで活躍していた(1967年12月撮影 )

しかし、やがて東海道本線と北陸本線が電化されると状況が変わります。
東海道新幹線や北陸新幹線が開業したこともあり、現在の名古屋〜富山駅間の所要時間は米原駅経由が最速2時間20分(〔ひかり649号〕+〔しらさぎ59号〕+〔かがやき516号〕)であるのに対し、高山本線経由は3時間49分(〔ひだ3・20号〕)かかります。
もっとも、名古屋から北陸へ乗換なしで行けるルートとしても人気があり、飛騨と北陸をセットで訪れる国内外の観光客も増えています。

高山本線の車両

最新鋭のハイブリッド車両が軽快に走る

高山本線では、区間ごとにJR東海とJR西日本の車両が使用されています。
主役は、名古屋・大阪〜高山・飛騨古川・富山駅間で運行されている特急〔ひだ〕。JR東海の最新鋭ハイブリッド車両、HC85系を使用し、1日13往復が運行されています。
HC85系は、エンジンで発電した電気を大容量バッテリーに充電し、電車と同じ主電動機(モーター)を回して走行するハイブリッド車両です。
バッテリーのおかげで、従来1両につき2台搭載していたエンジンが1台で済み、さらにエンジンは発電に専念するので、いつでも最適な状態で燃焼できます。その結果、CO₂は従来比約30%、窒素酸化物は従来比約40%の排出量削減を達成した環境に優しい車両です。


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特急〔ひだ〕の特徴は、その臨機応変な編成です。
HC85系には4両編成と2両編成があり、運行区間や時間帯、時期などによって組み合わせを変え、最小2両・最大10両で運行されるのです。また、ユニークな存在が、1日1本運行されている大阪駅始発の〔ひだ25号〕。この列車は、岐阜駅で名古屋から来た〔ひだ5号〕と併結しますが、岐阜駅3番線に到着後、乗客を乗せたままいったん大阪方に引き上げ、5号到着後4番線に転線して併結するのです。乗客を乗せたままホームを転線する定期特急列車は、全国でも唯一の存在です。

JR東海が運行する岐阜〜猪谷駅間の主力車両が、2010(平成22)年に登場したキハ25形です。
東海道本線などで活躍する313系電車をベースに開発された気動車で、車体構造や客室設備は313系とほとんど同じ。エンジンを切って駅に停車していたら、パンタグラフの有無くらいしか違いが分からないというくらいよく似ています。現在高山本線では26両が使用されており、このうち10両が転換式クロスシートの0・100番代。16両がオールロングシートの1000・1100番代です。共通運用なので、どちらにあたるかは運次第です。


キハ25形2次車。独自の鹿衝撃緩和装置などさまざまなアップデートがされている(2014年9月撮影)

岐阜〜美濃太田駅間を中心に、キハ75形も使用されています。
1993(平成5)年に登場した転換クロスシートの気動車で、快速列車などに使用するため、2023年まで特急〔ひだ〕に使用されていたキハ85系と同じパワフルなエンジンを搭載しています。美濃太田駅と多治見駅を結ぶ太多線での使用が中心で、低いホームに対応する乗降扉のステップも装備していないので、高山本線での運用は岐阜〜下呂駅間に限られていいます。

JR西日本が運行する猪谷〜富山駅間の普通列車には、キハ120形が使用されています。全国のローカル鉄道で使用されている新潟鐵工所(現在は新潟トランシス)の軽快気動車「NDC」シリーズのひとつで、全長16m級のコンパクトな車体にセミクロスシートを備えています。


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高山本線の見どころ

国宝・犬山城、日本ライン、飛水峡と景勝地が連続する

列車に乗って、岐阜駅から富山駅へ向かいます。車窓風景はどちらかというと進行方向右側がおすすめですが、左側の座席からでも飛騨川の峡谷は十分楽しめます。
左に金華山と岐阜城を見ながら東海道本線と別れ、濃尾平野を東へ進みます。次の長森駅の先から早くも上り勾配が始まり、標高30〜60mほどの各務原台地へ。右手に名鉄各務原線が並走し、各務原(かがみがはら)駅を過ぎると右手前方に国宝・犬山城が見えてきます。


国宝五城のひとつ「犬山城」。1537(天文6)年に織田信長の叔父・信康が築城した(2024年1月栗原景撮影)

鵜沼駅を過ぎると右手から木曽川が近づき、標高300mほどの山に挟まれた谷に入ります。このあたりは、ヨーロッパのライン川に景色が似ていることから「日本ライン」と呼ばれる景勝地。谷を抜けると、太多線と長良川鉄道が分岐する美濃太田駅です。

美濃太田駅の次、古井駅を過ぎて短い森山トンネルを抜けると、右から青々と水をたたえた飛騨川が近づきます。ここから約90km先の久々野駅付近まで、高山本線は飛騨川とともに北上します。この間、飛騨川を渡る回数はなんと24回。文字通り、川を縫うように走るのです。

上麻生駅の先で水力発電所を通過すると、飛騨川の谷が急に狭く深くなり、切り立った崖が迫ります。このあたりは飛水峡と呼ばれる景勝地で、よく見ると岩にはたくさんの穴が見えます。これは、水流が岩を回転させて削った「甌穴(おうけつ)」で、国指定天然記念物に指定されています。


自然によってつくられた景観はまさに絶景。6月には岩場に岩ツツジが咲く(2009年8月栗原景撮影)

やがて飛騨川は上麻生ダムを経て、列車は白川口駅へ。その先の第一飛騨川橋梁を皮切りに、次の下油井駅までに3回飛騨川を渡って、しばらくは左手に川を見ながら進みます。
飛騨金山駅からは飛騨地方に入り、沿線に人家が減って駅間距離が長くなります。勾配も、ここまでは最大10‰(1000m水平に進んで10mの高低差)でしたが、飛騨金山駅の先からは最大16.7‰となり、山岳路線の趣が深まります。
飛騨川も、これより上流は益田川(ましたがわ)とも呼ばれ、橋梁名は第一~第二十一益田川橋梁として連なっています。

温泉地として知られる下呂駅からは、やや開けた谷を走り、再び峡谷になるのは飛騨小坂駅付近から。飛騨川の蛇行はますます激しくなり、飛騨小坂〜渚駅間で6回も渡ります。


下呂駅周辺の線路沿いには桜並木。車窓から春の風を感じられる(岐阜県観光協会提供)

深い谷をようやく抜けると、標高667mの久々野駅。標高8mの岐阜駅から600m以上上ってきました。飛騨川とはここでお別れです。まもなく通過する宮トンネルは、全長2080mと高山本線でもっとも長いトンネルで、ここが太平洋側と日本海側の分水嶺。トンネルを抜けた先で渡る川は、神通川水系の宮川で、水の流れが飛騨川とは反対になります。列車は高山盆地に入り、まもなく高山駅に到着します。

歴史的な経緯から大きく迂回する笹津〜富山駅間


冬の飛騨古川駅。主人公が特急〔ワイドビューひだ〕に乗ってやってくるシーンは映画内でも印象的なシーン(飛騨市提供)

小さな山を越えて、再び盆地に降りると飛騨古川駅です。新海誠監督のアニメーション映画「君の名は」にも描かれた駅で、白壁土蔵が並ぶ古い町並みが魅力の町です。
飛騨細江駅を過ぎると古川盆地は終わり、列車は再び宮川の深い峡谷へ。宮川も飛騨川と同様に蛇行し、高山本線は下流の神通川と併せて富山駅までに20回渡ります。坂上駅から打保駅を経て猪谷までがもっとも深い峡谷で、夏には青々とした森と渓流を、冬には美しい雪景色を楽しめます。

猪谷駅は、2006(平成18)年まで、旧国鉄神岡線を引き継いだ神岡鉄道が分岐していた駅です。神岡鉄道の線路跡は現在もほとんどの区間で保存され、一部区間では軌道自転車で線路を走れる観光用レールバイク「Gattan Go!!」として営業しています。公共交通でのアクセスは少々大変ですが、観光シーズンには高山からツアーバスが運行されています。


廃線のレールを自転車で疾走! いつもとは違う鉄道体験ができる(2017年4月栗原景撮影)

さて、猪谷駅からは、JR西日本の区間に入ります。宮川は神通川と名を変え、川幅も広がります。笹津駅まで来ると、いよいよ富山平野。ここからまっすぐ北上すれば、15kmで富山駅に到達しますが、高山本線は西に大きく迂回し、10km以上長い25.3kmも走って富山駅に至ります。これは、高山本線の前身である飛越線を建設する際、旧八尾町の熱心な誘致によって八尾を経由することになったからという説が有力。その越中八尾駅は、越中おわら節に併せて情緒豊かに踊る「おわら風の盆」で知られ、毎年9月の開催時には富山駅から臨時列車が運行されます。


毎年9月1日から4日にかけて行なわれる富山県を代表する祭り「おわら風の盆」((公社)とやま観光推進機構提供)

越中八尾駅から北上した高山本線は富山市街に入り、あいの風とやま鉄道や北陸新幹線と合流すると、もう一度神通川を渡って、終着・富山駅に到着します。

高山本線は、沿線に温泉街や観光地も多く、旅の要素がいっぱいに詰まった路線です。高山や飛騨古川の町並みを歩いたり、下呂温泉でゆったり過ごしたりといった旅はもちろん、鵜沼駅から国宝・犬山城を訪れたり、神岡のレールバイクを楽しんだりと、自分のスタイルに合わせてバラエティ豊かな旅を楽しんでください。


四季によって車窓風景は様変わり。特急〔ひだ〕に乗って楽しみたい(2024年1月富山駅にて栗原景撮影)


高山本線(JR東海・JR西日本) データ

起点   : 岐阜駅
終点   : 富山駅
駅数   : 45駅
路線距離 : 225.8km
開業   : 1920(大正9)年11月1日
全通   : 1934(昭和9)年 10月25日
使用車両 : HC85系、キハ25形、キハ75形、キハ120形


著者紹介

栗原 景(くりはら かげり)

1971年、東京生まれ。鉄道と旅、韓国を主なテーマとするジャーナリスト。出版社勤務を経て2001年からフリー。
小学3年生の頃から各地の鉄道を一人で乗り歩き、国鉄時代を直接知る最後の世代。
東海道新幹線の車窓を中心に、新幹線の観察と研究を10年以上続けている。

主な著書に「廃線跡巡りのすすめ」、「アニメと鉄道ビジネス」(ともに交通新聞社新書)、「鉄道へぇ~事典」(交通新聞社)、「国鉄時代の貨物列車を知ろう」(実業之日本社)ほか。

  • 写真/栗原景、交通新聞クリエイト
  • 写真提供/公益社団法人とやま観光推進機構、一般社団法人岐阜県観光連盟、飛騨市
  • 掲載されているデータは2024年4月現在のものです。変更となる場合がありますので、お出かけの際には事前にご確認ください。
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