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2022.06.22鉄道HC85系「ひだ」―2022年7月デビュー! JR東海初のハイブリッド方式。これまでの「85系」との違いは?(THE列車)

「ひだ」「南紀」での次期特急車両

JR東海初となる「ハイブリッド方式」を採用した次期特急車両「HC85系」が2022年7月1日にデビュー。
ハイブリッド方式とは、ディーゼルエンジンで発電した電力と、ブレーキ時などに発生するエネルギーによって充電される蓄電池の電力を組み合わせて走行する方式のこと。そのメリットは大きく「安全性の向上」、「快適性の向上」、「環境負荷の低減」の3つに集約できます。

HC85系は、試験走行車によって基本性能や長期耐久に関する試験の結果を踏まえ、2022年度から2023年度にかけて量産車64両の新製が行われる予定。
現在、85系気動車で運転されている名古屋駅・大阪駅~高山駅・飛騨古川駅・富山駅間の高山本線の特急「ひだ」や、名古屋駅~新宮駅・紀伊勝浦駅間の紀勢本線の特急「南紀」が順次置き換わり、飛騨方面や南紀方面への旅がより快適なものになると期待されています。

搭載された新技術の数々

「HC」とは何の略?


車両形式の「HC」とは、エンジンで発電した電力と蓄電池の電力とを組み合わせ、モーターを回して走行する“Hybrid Car(ハイブリッド方式の車両)”であることを表しています。
1989年の登場以来30年以上にわたって活躍した従来方式の「85系気動車」から、技術革新したハイブリッド方式の85系という意味を込めて「HC85系」と名付けられました。

気動車と電車のいいとこどり


従来の気動車は、床下に搭載したエンジンを1両あたり2台使用して走行することで、高い走行性能を実現してきました。一方で、電車は架線から集電した電力で電動機を回転させて走行するため、エンジンを客室の真下で駆動させる必要がなく、気動車と比べて静粛性に優れたスムーズな運転が可能。

この2つの「いいとこどり」をすべく考えられた走行システムが、電力で動く電車方式を採用しつつも、必要な電力を発電用のディーゼルエンジン1機と蓄電池でまかなうハイブリッド方式です。
この方式では、エンジンを2台必要とした気動車方式に対してエンジンが1台で済むため、電車のように静かで快適な乗車を実現できます。
また、停車時の照明・空調や加速時の補助に、ブレーキ時に発生するエネルギーを溜めた蓄電池の電力を利用することで、環境負荷の低減にも大きく役立ちます。
気動車特有の回転部品が不要となることで、この部品に起因する事故等を防止できるという安全性の向上も重要なポイント。

H85系は、そんなハイブリッド方式の車両においても特に注目株です。その優れた特長を見ていきましょう。

HC85系の特長


85系気動車には特有だったエンジン音がない、静かな乗車を実現

HC85系の大きな特長は、ディーゼルエンジン1台+蓄電池という組み合わせで、ディーゼルエンジン2台の85系気動車と同じ「最高速度120km/h」での営業運転を目指していることです。これは、ハイブリッド方式としては国内最高を新たに記録するスピードとなります。
この速度を実現するために、ハイブリッド方式の旅客用鉄道車両では国内最大容量となる40kWhの蓄電池が各車両に搭載されています。

同時に、高効率化・小型化にも注力している点も見逃せません。永久磁石を使った同期発電機・電動機を国内で初めて同時導入し、高出力運転にもかかわらず蓄電池の負担を軽減。蓄電池寿命を確保するとともに、環境負荷低減を実現しています。
また水冷方式を採用し、蓄電池、電動機を駆動する電力変換装置等を国内で初めて一体化・小型化。サイズが小さくなったことでハイブリッドシステムの全機器を床下に収めることに成功し、広々とした客室空間を確保しました。

85系から進化した新機軸の技術


全座席にコンセントがついているのも利用者にはうれしいポイント

ハイブリッド方式への変更に伴って静粛性・快適性が向上するのは前述のとおりですが、H85系は防振ゴムや床を二重化することによって、振動・騒音をさらに封じ込めています。
また、踏切脱線時に列車の逸脱を制御して対向列車との衝突を防ぐ踏切用逸脱防止ストッパの設置や、エンジンなど重要機器の防護強化といった安全性への細やかな配慮も見逃せません。
車両各機器の動作状況データを車両基地へリアルタイム送信し、異常発生の抑制・迅速な検知を実現するなど、85系にはない新機軸の技術もふんだんに盛り込まれています。


ここにも注目! 鉄道コンシェルジュ ミスターKのとっておき情報

沿線の魅力を取り入れ、誰もが旅を楽しめる車内


グリーン車

グリーン車

「落ち着いた上質感」をコンセプトとしたグリーン車。
客室内は、沿線の新緑や美しい川と夕暮れの紫の空をイメージした配色で、飛騨家具の木目調も上品さを引き立てます。
床に絨毯を取り入れたほか、座面と背もたれが連動して傾くリクライニング機構を導入した座席に、ヘッドレストや読書灯、スライド式大型背面テーブル、高さ調節可能なフットレストを設置するなど、ひとつ上のくつろぎを提供するものとなっています。


安心して旅を楽しめる車椅子スペース 安心して旅を楽しめる車椅子スペース

また、バリアフリー設備の更なる充実を図るため、車椅子スペースを編成あたり3箇所設置しています。このうち2箇所は車窓を楽しめるように窓際に設置し、スマホなどの充電に使用できるコンセントも用意。
多機能トイレと洗面所は、ハンドル形電動車椅子も入れる十分な広さが確保されています。


岐阜団扇 「岐阜団扇」

一位一刀彫 「一位一刀彫」

さらに、沿線地域の伝統や文化を車内で楽しめるよう、伝統工芸品を鑑賞できる「nano-museum(ナノミュージアム)」をデッキに新設。グリーン車デッキに「岐阜団扇」「美濃和紙」、普通車デッキには「一位一刀彫」「飛騨春慶」「伊勢型紙」が展示されており、沿線の魅力を発信しています。

シンボルマーク


安全性・快適性の向上や環境負荷の低減を図りつつ、ハイブリッド方式の鉄道車両として国内初の最高速度120km/hでの営業運転を目指しているHC85系。
これを踏まえ、車両の側面に配置されるシンボルマークは、車両の外観の帯に合わせた3本の流線形状によって“スピード感”を、赤と青の2色によって特急「ひだ」「南紀」が走行する飛騨・南紀の紅葉と海を、そのグラデーションによってハイブリッド方式を、それぞれ表現しています。

エクステリアデザイン


先頭車両は美しい曲線の流線形で、多客時などの増結が容易にできる貫通タイプとなっています。車体のベースは白色ですが、先頭車両の正面部分は黒色として精悍な印象を与えます。
また、車体前面からコーポレートカラーのオレンジ色の帯を下から窓上へと描き、帯を境に車体側面の色合いに変化をつけています。飛騨・南紀の美しい風景に映えるデザインと言えるでしょう。

2022年7月1日にデビュー!

次世代ハイブリッド車両のHC85系は、2022年7月1日に運転開始となりました
まずは名古屋~高山間などを結ぶ特急「ひだ」の一部列車に使用されています。

またJR東海は、HC85系試験走行車において、ユーグレナ社が開発・販売する次世代バイオディーゼル燃料の試験を実施。
両社における、地球環境保全を通じた持続可能な社会の実現に向けた取り組みの一環として、燃焼時のCO2の排出が実質ゼロと考えられている次世代バイオディーゼル燃料の実用性を検証しています。


列車情報

運転日 2022年7月1日運転開始(運転開始時は一部列車に使用)
運転区間 東海道本線・高山本線 名古屋駅~高山駅


著者紹介

ミスターK(結解喜幸)

1953年、東京都出身。出版社勤務を経て旅行写真作家に。鉄道や時刻表のたのしさを知り尽くした鉄道の達人。現在は地酒とつまみを追い求める「飲み鉄」にはまっている。

  • 文/ミスターK(結解喜幸)
  • 取材協力・写真/東海旅客鉄道株式会社
  • 掲載されているデータは2022年6月現在のものです。
  • 運転日・運転区間等は変更となる場合があります。

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