人気テーマパークの観光にも便利なアクセス路線・大村線(JR九州)
日本全国津々浦々をつなぐ鉄道路線。
そんな日本の鉄道路線は、150年以上の歴史を持ちます。
日常の一部でもある鉄道路線は地域と密接に関わり、さまざまな歴史とともに走ってきました。
通勤・通学で使用するなじみのある路線にも、思いがけない歴史があるかもしれません。
旅の目的地へ連れて行ってくれる路線には、見逃せない車窓が待っています。
さあ、鉄道路線の歴史の風を感じてみませんか?
今回は、都市間連絡路線でありながら沿線にテーマパークのハウステンボスがあり、自然の景色と九州の鉄道の歴史を感じ取ることができる大村線をご紹介します。
大村線の歴史
長崎本線の一部として建設された歴史ある路線
長崎県の早岐駅と諫早駅を結ぶJR大村線は、大村湾に沿って南北に縦断する全長47.6kmの路線です。多くの列車が、佐世保線と長崎本線に乗り入れて佐世保〜長崎間を直結する都市間連絡路線であると同時に、人気テーマパークであるハウステンボスへのアクセス路線として、博多から直通の特急列車も運行されています。さらに、大村湾の波打ち際を走る絶景路線でもあるなど、多彩な顔をもつ路線です。
大村線は、元々は私鉄の九州鉄道が「長崎線」として建設した路線です。1898(明治31)年に全通し、日露戦争後の1907(明治40)年7月に国有化されて「長崎本線」となりました。1934(昭和9)年に、肥前鹿島まわりの新線が開通するとそちらが長崎本線となり、早岐〜大村〜諫早駅間は大村線となります。長崎へのメインルートの座を譲った大村線ですが、沿線に大村海軍航空隊など軍事施設が多かったことからその後も重要路線として扱われ、戦後も一部の優等列車が大村線経由で運行されていました。
長崎本線として建設された時の経緯については、2023年に公開した「長崎本線」の記事もご覧ください。
「長崎本線」についてもっとくわしく
大村線の車両
観光特急や最新技術のハイブリッド車両が走る
現在の大村線は、早岐〜ハウステンボス駅間4.7kmが電化され、博多駅から特急〔ハウステンボス〕が1日5〜7往復程度運行されています。車両は、1988(昭和63)年にJRグループ初の新型特急用車両としてデビューした、「ハイパーサルーン」783系。運転席後方の座席の床を高くして展望席としたり、車両の中間部に乗降扉を設けて、前後の客室のインテリアを変化させたりと、国鉄時代にはなかった新機軸を数多く盛り込んだ車両です。〔ハウステンボス〕に使用されている車両は、2017年から水戸岡鋭治さんのデザインでリニューアルされた〔ハウステンボス〕専用車両で、天井や壁、床に天然木材を使用するなど明るい雰囲気に包まれています。
ハウステンボス〜諫早駅間は非電化で、普通列車と快速/区間快速〔シーサイドライナー〕が運行されています。車両は、2020年に登場したYC1系。車体前面と前部標識灯を縁取るLEDが特徴の車両で、登場時には夜になると車両前面をキラキラとイルミネーションのように輝かせながら走っていました。現在は、原則として外周部の装飾灯は消灯して運行されています。
YC1系は、エンジンで発電した電気で主電動機を動かし、ブレーキ時に発生した電気を充電して再活用する「ハイブリッド気動車」であることも特徴です。これにより非電化区間でも電車並みの軽快な走行性能を発揮するほか、燃料消費量を従来の気動車に比べ約20%削減しました。デザインを担当したのは〔ハウステンボス〕と同じ水戸岡鋭治さんで、普通列車とは思えない温かみのあるデザインと、従来よりも広くなった座席が好評です。ロングシート主体ながら一部クロスシートもあり、きれいな窓から車窓風景を楽しめます。
また2022年9月、西九州新幹線の開業と同時に登場したD&S列車が、〔ふたつ星4047〕です。キハ40系を改造した3両編成の観光特急で、主に毎週金曜日から月曜日にかけて、武雄温泉〜長崎駅間を下りは長崎本線経由(有明海コース)、上りは大村線経由(大村湾コース)で運行しています。2号車には豪華な内装のフリースペース「ラウンジ40」があり、ゆったりとしたソファに座って、「ふたつ星うれしの茶」や「長崎スフレ」(上りのみ販売)など沿線の特産品を味わえます。
「ふたつ星4047」についてもっとくわしく
大村線の見どころ
大村湾の水際をたどる風光明媚な車窓
早岐駅から諫早駅まで、YC1系の普通列車に乗車しましょう。
早岐駅は、その配線に特徴があります。江北〜早岐〜佐世保駅間の佐世保線が当駅で進行方向を変えるスイッチバック構造となっており、大村線へは江北方面、佐世保方面のどちらからも直通できるようになっています。これは、大村線が長崎本線の一部として建設されことによるものです。かつては、「長崎本線早岐駅」から佐世保方面行きが分岐する形になっていました。
YC1系はロングシートが主体ですが、座席は進行方向右側がおすすめです。早岐駅を発車すると、まもなく右手から早岐瀬戸が近づいてきます。幅が100m前後しかないことから川のようにも見えますが、これは佐世保湾と大村湾をつなぐ「海」。対岸は針尾島という島です。
水辺を走ると、ハウステンボス駅に到着。多くの観光客がここで下車します。
次の南風崎駅は、トンネルをひとつ抜けてわずか900m。今は静かなこの駅は、終戦直後、中国や南方からの引揚者を乗せた臨時列車が発車した駅です。当時、佐世保港が使えなかったために引揚者は針尾島の浦頭港に上陸、検疫などを受けたのち、当駅から故郷に帰っていったもので、駅舎に引揚者の苦難を伝える掲示板があります。
列車はいったん内陸に入り、短いトンネルを2つ抜けます。大村線には全部で9カ所のトンネルがありますが、明治時代の開業以来使われている煉瓦トンネルが多く、左右の壁柱やトンネル上部の帯石など、明治時代のトンネルらしい意匠を残しています。
川棚駅の先から、大村線は大村湾の海岸沿いに出ます。大村湾は、先ほどの早岐瀬戸と、針尾島と西彼杵半島の間にある針尾瀬戸の2カ所のみで外海とつながっている、まるで湖のような海。車窓からも、晴れた日なら湾の向こうに西彼杵半島がよく見えます。
住宅地にある彼杵駅を発車すると再び海岸沿いに出ます。2駅先の松原駅までが、のどかな大村湾をたっぷり楽しめる区間。
次の千綿駅は、ホームが大村湾に面した風光明媚な駅で、早岐方面から海沿いに近づいて来る列車を眺めることができます。1993年に改築された木造駅舎は、一部に旧駅舎の古材を利用したレトロなデザインで、花屋さんのアトリエショップが入っています。千綿駅から松原駅にかけては、線路が左にカーブして大村湾がもっともよく見える区間。夕方なら、対岸に落ちる夕陽も見られるでしょう。
西九州新幹線が接続する新大村駅
松原駅からは、大村市の市街地に入ります。左から西九州新幹線の高架線が近づき、車両基地の高いコンクリート塀が現れて、大村車両基地駅に停車。西九州新幹線の乗り換え駅である新大村駅は、大村の文化財である五色塀を色と凹凸で表現した斬新なデザインの駅舎が特徴で、駅周辺にはマンションや商業施設が続々とオープンしています。市街地のすぐ沖合には、世界初の本格的海上空港として建設された長崎空港があり、大村市は新幹線と空港、長崎自動車道、そして大村線と、さまざまな交通機関が集まる都市となりました。
竹松駅を経て、大村市の中心駅である大村駅を発車すると、もう一度大村湾の海岸をちらりと見て内陸に入ります。岩松駅の先で大村湾に注ぐ鈴田川を渡り、大村線では最も急な20‰(1000m水平に進むごとに20mの高低差)の上り勾配へ。標高60mほどの小さな峠を2つのトンネルで抜けると、下りとなって左から本明川が近づきます。この川は諫早湾を経て有明海に注ぐ川。小さな峠とはいえ、長崎半島の分水嶺を越えたのです。
再び西九州新幹線の高架線が現れ、その下をくぐると大村線の終着・諫早駅に到着します。諫早駅は、西九州新幹線と長崎本線のほか、島原半島をたどる島原鉄道も分岐する交通の要衝で、雲仙方面へのバスも発着します。諫早駅止まりの列車は、竹松発の区間運転の列車だけで、早岐方面からの列車はすべて長崎駅へ直通します。
「西九州新幹線」についてもっとくわしく
新幹線にも接続し、沿線にテーマパークもある大村線は、自然の景色と九州の鉄道の歴史を感じ取れる魅力的な路線です。長崎や佐世保を訪れたら、ぜひ足を延ばしてみてください。途中下車を楽しむなら、佐世保~早岐~諌早~長崎駅間(長与支線を含む)の普通・快速列車に2日間乗り放題となる「ぶらり大村線きっぷ」(3150円/通年販売)がおすすめです。
大村線(JR九州) データ
起点 : 早岐駅
終点 : 諫早駅
駅数 : 15駅
路線距離 : 47.6km
開業 : 1898(明治31)年1月20日
全通 : 1898(明治31)年11月27日
使用車両 : 783系、YC1系、キハ40系(キハ47形・キシ140形・キハ147形)
著者紹介
- ※写真/(一社)長崎県観光連盟,、 (一社)九州観光機構 、交通新聞クリエイト、栗原景
- ※掲載されているデータは2024年10月現在のものです。変更となる場合がありますので、お出かけの際には事前にご確認ください。