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2026.07.24鉄道参宮線(JR東海)歴史と格式を備えたお伊勢参りのローカル線

伊勢神宮のお膝元へと続く、多気と鳥羽を結ぶ風光明媚な参宮線(JR東海)

日本全国津々浦々をつなぐ鉄道路線。
そんな日本の鉄道路線は、150年以上の歴史を持ちます。

日常の一部でもある鉄道路線は地域と密接に関わり、さまざまな歴史とともに走ってきました。
通勤・通学で使用するなじみのある路線にも、思いがけない歴史があるかもしれません。
旅の目的地へ連れて行ってくれる路線には、見逃せない車窓が待っています。
さあ、鉄道路線の歴史の風を感じてみませんか?

今回は伊勢志摩の海風を感じられ、多気と鳥羽を結ぶ路線・参宮をご紹介します。

参宮線の歴史

お伊勢参りを身近な存在にした参詣路線


伊勢神宮の玄関口にふさわしい駅舎として名高い夫婦岩をモチーフにしたユニークなデザインに改築された二見浦駅(1993年撮影)

三重県の伊勢志摩地方を走る、歴史あるローカル線。それがJR東海の参宮線です。
紀勢本線の多気駅と鳥羽駅を結ぶ全長29.1kmの路線で、伊勢平野の田園地帯から伊勢神宮の門前町、そして伊勢湾に面した海辺の町へと表情を変えていきます。
まず注目したいのが、「参宮線」という名称です。「宮に参る」、つまり伊勢神宮を参拝するための鉄道という意味。「どこを結ぶか/通るか」ではなく、「何をしに行くか」を路線名にしているのは、全国のJR線で参宮線だけです。
その名の通り、参宮線は伊勢神宮への参拝のために建設された路線です。
江戸時代、伊勢神宮参拝は「お伊勢参り/お蔭参り」と呼ばれて何度も大流行しました。江戸から徒歩で片道15日、大阪からでも5日かかる大がかりな旅で、明治に入って新橋〜横浜間に鉄道が開業すると、「お伊勢参りの鉄道を」という声が高まりました。
そうした中で設立された私鉄が、参宮鉄道です。現在の関西本線などの前身である関西鉄道に接続する形で計画され、1893(明治26)年、津〜相可(後に相可口を経て現・多気)〜宮川間が開業。1897(明治30)年には伊勢神宮の最寄り駅である山田(現・伊勢市)まで延伸し、1900(明治33)年までに大阪・奈良・名古屋、そして東京から伊勢神宮までが鉄道で結ばれました。
1907(明治40)年には国有化されて、1909(明治42)年に亀山〜相可〜山田間が「参宮線」となります。そして1911(明治44)年、山田〜鳥羽間が延伸して亀山〜鳥羽間が全通。大正から昭和初期にかけては、一部区間が複線化されて東京や大阪、名古屋などから直通列車が運転されました。
東京〜山田間は約13時間、大阪〜山田間は約6時間で結ばれて、お伊勢参りは誰もが出かけられる、身近な観光旅行となったのです。
伊勢神宮には、天皇陛下をはじめとする皇族も訪れます。初代山田駅には独立した貴賓室が設けられ、参宮線にはたびたびお召列車が入線しました。
線路も幹線並みの規格で整備され、地方路線としては破格の扱いを受けていました。

一度は近鉄との競争に敗れるもJR化後に復活

そんな参宮線にも、転機が訪れます。太平洋戦争が激しくなると物見遊山的なお伊勢参りは控えられるようになり、1944(昭和19)年に複線区間のレールが単線に戻されました。
戦後、1959(昭和34)年に紀勢本線が全通すると、それまで参宮線の一部だった亀山〜多気間が紀勢本線に編入。参宮線は多気〜鳥羽間となり、相可口は多気に、山田も伊勢市に改称されました。
この頃から、近鉄との競争が始まります。同じ1959年、近鉄名古屋線が狭軌から標準軌に改軌されて名古屋から伊勢市・宇治山田方面への直通運転が可能となり、1970(昭和45)年には近鉄鳥羽線が全線開業します。これにより、大阪・京都・名古屋から志摩・賢島方面へ特急が直通するようになり、国鉄を圧倒。参宮線は地域輸送を中心としたローカル線に変わりました。
1986(昭和61)年には京都〜鳥羽間の急行〔志摩〕が廃止され、参宮線から優等列車が姿を消しています。
二度目の転機は、1987(昭和62)年のJR東海発足でした。JR東海は参宮線の価値を再評価し、1990年に快速〔みえ〕の運行を開始。1993年には転換クロスシートのキハ75形を投入し、特急料金不要・新幹線との乗り継ぎなどをアピールして、近鉄に対抗したのです。
快速〔みえ〕の挑戦は一定の成果を挙げ、近年はジャパン・レール・パスで乗れることから外国人旅行者の利用も増えています。


快速〔みえ〕(2024年栗原景撮影)

参宮線の車両

引退が近づくキハ75形による快速〔みえ〕


参宮線を走る快速〔みえ〕(2013年撮影)

2026年7月現在、参宮線には定期の特急列車は運転されておらず、通常は乗車券だけで乗車できます。
参宮線の看板列車が、快速〔みえ〕です。名古屋〜伊勢市・鳥羽駅間を伊勢鉄道経由で結ぶ快速列車で、おおむね1時間に1本程度運転されています。
快速〔みえ〕の車両は、1993年に登場したキハ75形。米国カミンズ社製の、出力350PSという強力なディーゼルエンジンを1両に2基搭載した車両で、最高速度は120km/h。座席は転換クロスシートで、駅弁などを食べながら快適な旅を楽しめます。

なお、快速〔みえ〕のキハ75形は登場から30年以上が経過していることから、2028年度から新型のHC35形に順次置き換えられることが発表されています。新型車両も、快速〔みえ〕向けは2両編成中1両に転換クロスシートを採用。エンジンとモーター、そして大容量バッテリーを組み合わせた環境に優しいハイブリッド方式の車両で、空調はAI制御を採用して冷房能力を約16%向上するなど最新の技術が投入されます。
普通列車は、JR東海の標準型気動車であるキハ25形が使用されています。313系電車とほぼ同様の車体を採用した車両で、座席はすべてロングシートです。

参宮線の見どころ

130年間雨風に耐え続けた宮川橋梁

参宮線の起点は多気駅ですが、普通列車は朝晩を除いて原則として紀勢本線亀山駅から直通運転を行っています。1959(昭和34)年までは亀山〜鳥羽駅間が参宮線だったため、今も歴史の名残を留めていると言えるでしょう。旧参宮線区間の亀山〜多気駅間は、「紀勢本線」の記事を参照してください。


「紀勢本線」についてもっとくわしく

紀勢本線(JR東海・JR西日本)紀伊半島を一周する最後の「本線」

紀伊半島を海岸線に沿ってぐるりと一周する紀勢本線は、全長384.2kmの路線です。沿線に白浜温泉や勝浦温泉、あるいは世界遺産に登録された熊野古道といった見どころが点在し、太平洋の雄大な車窓を楽しめる絶景路線でもあります。

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多気駅から、現代の参宮線の旅に出発します。座席は、鳥羽駅に向かって左側が、海が見えるのでおすすめ。一部座席が指定席となる快速〔みえ〕は、A席側となります。もっとも、参宮線で海が見えるのは鳥羽駅の手前付近に限られ、車窓風景の大部分は田園風景です。
多気駅を発車した列車は、紀勢本線が右に分岐して南東に直進します。次の外城田駅までは沿線で唯一勾配のある区間で、小さな丘陵地を越えます。
田丸駅は、参宮線が最初に開業した時からある駅で、交流施設を兼ねた美しい木造駅舎があります。2024年に竣工した新しい駅舎ですが、大正初期に建てられた先代駅舎の特徴を再現しており、参宮線の歴史を感じさせてくれます。
田丸駅付近からは伊勢平野の田園地帯に出て、住宅も増えてきます。
宮川駅の先で渡る宮川橋梁は、参宮鉄道時代の1897(明治30)年に架けられた橋梁で、10基の煉瓦橋脚が支えています。御召列車も通過するため堅牢な構造が採用され、建設から約130年が経過した今も現役です。

終着近くに現れる絶景区間


海上築堤(松下~鳥羽間)付近の車窓(2024年栗原景撮影)

山田上口駅を発車すると、左手から近鉄山田線が近づき、伊勢神宮外宮の最寄り駅である伊勢市駅に到着。JRと近鉄が改札口を共用する珍しい駅で、北口の近鉄乗り場と南口の参宮線乗り場は、やや長い跨線橋で結ばれています。
外宮は駅の南側で、徒歩5分ほどの場所。内宮はさらにバスやタクシーで10分ほどの場所にあります。かつて山田駅と呼ばれた時代には、駅前に客待ちの人力車が並び、路面電車が走る参道には高級旅館が軒を連ねていました。そうした光景は戦災とモータリゼーションでほとんどが失われましたが、今も門前町らしいたたずまいを残しています。
伊勢市駅を発車して近鉄の下をくぐり、五十鈴ケ丘駅へ。その先で渡る五十鈴川は河口に近く広々としていますが、海は見えません。
二見浦駅は、有名な夫婦岩の最寄り駅。海岸までは約500m、夫婦岩までは約1.3kmあり、二見浦公園を散策しながら20分ほどの道のりです。
参宮線唯一のトンネルで音無山の下をくぐり、五十鈴川派川を渡って松下駅を過ぎると、参宮線の旅もクライマックス。森を抜けた先、左手に池の浦の海岸が近づきます。小さなホームは、かつて海辺の絶景駅として親しまれ、2020年に廃止された池の浦シーサイド駅の跡。その先で、列車は海上築堤を通過し、左右に水面が迫ります。
再び近鉄の下をくぐって近鉄鳥羽線との並走区間に入ると、まもなく終着・鳥羽駅に到着。真珠島や鳥羽水族館が徒歩圏内の、海辺の町です。
近鉄の鳥羽駅と隣接しており、賢島方面への列車に乗り換えられるほか、鳥羽水族館横の鳥羽港からは、伊勢湾を横断して愛知県の伊良湖へ向かう伊勢湾フェリーも発着しています。

参宮線で活用できるおトクなきっぷ情報

便利なフリーきっぷも豊富

参宮線には、お得なきっぷも豊富に用意されています。名古屋からのアクセスに便利なのが「伊勢・鳥羽エリアフリーきっぷ」。名古屋市内〜鳥羽間の往復に加えて、松阪〜多気〜鳥羽間が乗り放題となるきっぷで、2日間有効で5,300円(おとな1人用のみ販売)。
伊勢市・鳥羽地区の三重交通バスに乗り放題となる「伊勢鳥羽みちくさきっぷ2DAYS」の引換券もついてくるので、参宮線沿線を2日間めいっぱい楽しめます。
土休日および年末年始(12月30日〜1月3日)に、普通列車に1日乗り放題となる「青空フリーパス」(2,620円/こども半額)のフリー区間にも参宮線が含まれており、名古屋から鳥羽まで快速〔みえ〕で往復するだけでお得です。
いずれのきっぷも、特急券を購入すれば〔南紀〕などの特急も利用できます(「伊勢・鳥羽エリアフリーきっぷ」はグリーン車不可)。なお、きっぷの内容や発売状況は変わることがあります。お出かけの際は事前にご確認ください。
名古屋から日帰りで楽しめ、伊勢神宮や鳥羽水族館など沿線に見どころも多い参宮線は、週末のおでかけにぴったりのローカル線。手軽なお伊勢参りを楽しんでみてはいかがでしょうか。



参宮線(JR東海)データ

起点   : 多気駅
終点   : 鳥羽駅
駅数   : 10駅(起終点を含む)
路線距離 : 29.1km
開業   : 1893(明治26)年12月31日(津〜相可~宮川)
全通   : 1911(明治44)年7月21日(山田~鳥羽)
使用車両 : キハ25形、キハ75形


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著者紹介

栗原 景(くりはら かげり)

1971年、東京生まれ。鉄道と旅、韓国を主なテーマとするジャーナリスト。出版社勤務を経て2001年からフリー。
小学3年生の頃から各地の鉄道を一人で乗り歩き、国鉄時代を直接知る最後の世代。
東海道新幹線の車窓を中心に、新幹線の観察と研究を10年以上続けている。

主な著書に「廃線跡巡りのすすめ」、「アニメと鉄道ビジネス」(ともに交通新聞社新書)、「鉄道へぇ~事典」(交通新聞社)、「国鉄時代の貨物列車を知ろう」(実業之日本社)ほか。

  • 写真/栗原景、交通新聞クリエイト
  • 掲載されているデータは2026年7月現在のものです。変更となる場合がありますので、お出かけの際には事前にご確認ください。
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