トレたび JRグループ協力

2024.11.27旅行木曽の森と山の中で、リセット&リボーンの旅

【長野県木曽町・上松町・大桑村・南木曽町】心も体も すっきり

長野県南西部に位置する山岳地域、木曽。
深い森林を抱える山々の間には、江戸時代の風情を残す宿場町。
木曽路沿いの木曽川では、美しい渓谷から清冽な水が流れ込む。
その豊かな自然環境と歴史的な風景のなかで深呼吸、忙しい日々をすっきりリセットの旅へ。

【中山道 木曽福島】数百年にわたって旅人たちを受け入れてきたにぎわいの歴史

木曽福島駅を発車した特急しなの号が、山々のかなたに遠ざかっていく。駅周辺には中山道の宿場町・福島宿が広がる。
江戸時代に整備された中山道は江戸と京都を結ぶ主要な街道の一つで、福島宿は街道のなかでも屈指の要衝。
訪れてみれば、静かな宿場町の風情が色濃く残っていることがわかる。
標高約780m、澄みわたる山の空気を吸い込んで、川のせせらぎをBGMに歩き出す。


江戸時代末期の建物が点在し、当時の風情を残す「上の段」


中山道沿いの「田ぐち氷菓店」のジェラートと近くの足湯でひと休み

「上の段」には細い路地裏もあちこちに


中山道 福島宿

木曽川のせせらぎをBGMに、そぞろ歩きを。

所在地:木曽町福島
アクセス:JR中央本線木曽福島駅から徒歩11分

まず訪れたのは興禅寺。開山は600年近く前と伝わる禅宗寺院で、平安時代末期の武将・木曽義仲を祀る。木曽家と福島関所代官の山村家代々の菩提所や、木曽踊発祥の地として知られ、宝物殿では、木曽の工芸作家による作品なども展示されている。
枯山水庭園の看雲庭は、昭和38年(1963)に巨匠・重森三玲が手がけた日本一広い石庭である。雲を表現する白い線や市松模様の露台など、伝統的なスタイルのなかにもモダンな趣が。
穏やかな空気と緑に包まれた、池泉鑑賞式庭園の万松庭では、心が研澄まされるような静寂のなか、縁側に腰かけてひと息つく。


江戸時代中期に作られた万松庭は、石庭とは対照的な安らぎを感じさせる

昭和を代表する作庭の巨匠が作った枯山水は、世界文化遺産に登録された京都の龍安寺と同じ七五三石組


興禅寺(こうぜんじ)

枯山水と池泉の庭で、心を開放するひとときを
開山は600年近く前と伝わる禅宗寺院。平安時代末期の武将・木曽義仲を祀り、木曽家と福島関所代官の山村家代々の菩提所や、木曽踊発祥の地として知られる。
宝物殿では、木曽の工芸作家による作品なども展示されている。

問い合わせ先:0264-22-2428
時間:8:30~16:30
定休日:無休(冬期は庭園のみ公開)
料金:500円(冬期は300円)
所在地:木曽町福島門前5659
アクセス:木曽福島駅からバス5分の興禅寺下車、徒歩1分


御料館の大会議室は、アール・デコ様式のモダンな造り

お参りを終えると、ふと隣に洋風の建物が見えた。かつて旧帝室林野局の庁舎だった御料館は、いまでは町のシンボルとして森林文化を発信している。
資料室で見られる木曽谷模型は、明治13年(1880)に作られたとは思えない精巧なもので、木曽の地形がはっきりとわかり、興趣をそそる。

宿場町の細い路地裏を探検するように散歩してみれば、ひらけた先に思いもよらない美しい景色が広がる。
直角に曲がった街道や千本格子、なまこ壁の土蔵を眺めながら「上の段」まで上り下り。思いのままに放浪できるのもひとり旅の醍醐味だ。

古い町並みのなかにも、「ギャラリーカフェSOMA」のような新たな息吹が。店名の由来は、木こりを意味する「杣(そま)」。地元の林業会社による店で、木曽で育まれた良質な木と職人たちの繊細な手仕事を扱う。
「観光で訪れる人に利用していただけたら」と軽食や季節のメニューを豊富に提供し、旅人たちの貴重な食事処としても重宝されている。


地元作家による木工、陶芸、革など自然の素材を使った作品が並ぶ

柑橘(かんきつ)のパウンドケーキ650円は、さわやかで自然派の味わい


ギャラリーカフェSOMA(ソマ)

木曽の杣文化にふれ、木のぬくもりを感じて
空き家をリノベーションした古民家カフェ。1階の手前側は木曽のクラフトを購入できるギャラリーで、奥のカフェは軽食やスイーツを提供。2階では木曽で活動するアーティストの個展を常時開催している。

問い合わせ先:080-7136-1952
時間:10:00~16:30(カフェは~16:00LO)
定休日:不定
所在地:木曽町福島5073-1
アクセス:木曽福島駅から徒歩15分

宿に到着したら、温泉でまったり過ごしたい。
「街道浪漫 おん宿 蔦屋や」は創業350年を超える老舗。最上階の露天風呂付客室で、木曽ヒノキの香りを深く吸い込みながら肩まで湯に浸かる至福の時間。
夕食は川魚や朴葉味噌、新鮮な野菜もたっぷりな、木曽路のおもてなしを心ゆくまで堪能できるごちそうだ。味の濃淡の中にほんのり甘みが感じられ、やさしい味わいが染みわたる。宿の正面にある「七笑(ななわらい)酒造」の日本酒でほろ酔い気分になりながら、静かな夜の山に抱かれて眠りにつく。


最上階の和室「月あかり」にはプライベート露天風呂も

厚めに切った信州マーブルポークをしゃぶしゃぶで


14代目女将の宮崎昌美さんは、伝筆(つてふで)認定講師の資格をもつ

木曽旅の思い出を筆文字にしたためる伝筆体験は女将と一緒に


街道浪漫 おん宿 蔦屋(つたや)

木曽路で受け継がれてきたおもてなしの伝統
元禄元年(1688)に旅籠として創業。温泉のほか、内風呂は木曽谷に古くから受け継がれる「百草薬」の薬湯だ。
中山道を知りつくしたガイドとともに、絶景や街道グルメを求めて木曽路を歩く特別な宿泊プラン「街道浪漫めぐり」も人気。

問い合わせ先:0264-22-2010
料金:1泊2食2万6550円~
日帰り入浴:13:00〜21:00、不定休。600円
部屋数:30室
泉質:含二酸化炭素-カルシウム-炭酸水素塩冷鉱泉
所在地:木曽町福島5162
アクセス:木曽福島駅から徒歩15分

【木曽の山と森】雄大な自然のエッセンスを浴びて、体も心も生まれ変わる


国道沿いの食事・お土産処「ねざめ亭」付近からの眺めは、絶景そのもの


寝覚の床(ねざめのとこ)

緑の山々の中でよく映える、白い花崗岩が織りなす奇勝「寝覚の床」は、急流が花崗岩の岩盤を削り、四角い岩が並ぶ独特な地形を形成する、木曽川沿いの名勝(写真中央右寄り)。浦島太郎が竜宮城から戻った後に玉手箱を開いた場所だという伝説がある。

所在地:上松町上松
アクセス:JR中央本線上松駅からバス6分の中山道ねざめ下車、徒歩5分(寝覚の床入口)


代表的な散策路「駒鳥コース」にある、ひのき大樹

木曽といえば山と森。かつては武将たちに、明治時代以降は御料林として大事にされてきた。
国有の赤沢自然休養林で深呼吸すれば、清涼な空気で体の細胞がみるみる生まれ変わっていくような感覚に。
見上げれば丸い葉がかわいらしいマルバノキは、秋になると真っ赤に色づく。
足元にクローバーのような小さな葉を茂らせるバイカオウレンは、春には可憐な白い花を咲かせるそうだ。
この森では、森林浴や森林セラピーにも積極的に取り組んでいる。病院でも活用されるなど、森林のもつ癒やしの力は科学的にも実証されているのだ。


森林浴効果をもたらす木々が発する香りの成分が心と体をリフレッシュ

休養林の中を往復するのは、かつて山から木材を運んだ赤沢森林鉄道


赤沢自然休養林

樹齢300年を超える天然ヒノキの森で森林浴
良質な木材産地として、歴史的・文化的に貴重な神社仏閣の維持や、地域の木材産業の継承・振興に大きな役割を果たしてきた針葉樹林。
戦後は国有林の指定を受け、保護されている。2006年には林野庁の森林セラピー基地に指定された。

問い合わせ先:0264-52-1133
時間:9:00~16:00
定休日:11月初旬〜4月末
料金:無料(駐車場料金600円)
所在地:上松町小川 小川入国有林
アクセス:上松駅からバス30分の赤沢自然休養林下車すぐ


凹みや節がある木も素材にするUFO花器6600円〜は、野の花がよく似合う

寒冷なこの地域で育つ木々は、年輪がゆっくりと作られ、木質が密なよい材となる。
20年に一度の伊勢神宮の式年遷宮「御杣始祭(みそまはじめさい)」に使う御神木の伐採もここで行われている。そんな優れた木とともに、漆器や木工などの手仕事も発展した。
その技をいまに引き継ぐ「木地師の里 ヤマイチ」は、南木曽ろくろ細工を長年にわたって製作する工房だ。
「伝統工芸に指定されたのは昭和55年(1980)ですが、その歴史は1100年以上も前から始まっています」と代表の小椋(おぐら)一男さん。

木工芸の職人を意味する「木地師」は滋賀県の小椋谷で始まり、やがて良木を求めて全国に広がったという。
工房では小椋さんが、ろくろを使い木を削り、ヤスリで表面をツルツルに仕上げていく。素早く、かつ繊細な手仕事。ぽってりとした愛らしい木の皿がすぐにできあがった。 
工房が大切にしているのは、「どんな木も使う」こと。近所の庭先や林道、果樹園などで邪魔になってしまった木をもらい、そのお礼に工芸品にして贈ると「あの木がこれになったの?」と喜ばれるそうだ。食器にすれば割れてしまうような傷のある木も、ろくろでつややかに丸く仕上げて美しい花器に。寄木のようにして端材を全部使い、うろのある木はほかの材料で穴を埋めて、木がムダにならないように工夫している。
「木は人間と一緒で、性格や個性が全部違う。やんちゃな木、素直な木、いろいろある。毎日違う木が相手だから、木の仕事は飽きない」。
まさに、同じ木で作った器でも重さや色合いがまったく違う。
「1000年もつないできてくれた伝統の技を、感謝しながらこれからも受け継いでいきたい」と小椋さん。伝統に裏打ちされた逸品は、時を超え人々の心を魅了してやまない。


1000年前に使用されていたものを復元した道具で、簡単なろくろ体験ができる。要予約(2名〜。1名の場合は要問い合わせ)、4400円〜

柿の木は本来白いが、時間が経つと黒く変化して深い味わいに


木地師(きじし)の里 ヤマイチ

木とともに生きてきたからこそ表現できる気品のある工芸品
古くから木々の豊かな木曽谷にある木地師の集落で、伝統工芸・南木曽ろくろ細工の制作、販売を行う工房。
木材をろくろで回転させながら、カンナで削り出して形を作り上げる。丸みのある器は、美しい木目や手ざわりのよさが特徴。
ヤマイチのろくろで丸いものならなんでも作れる。木皿は21〜24㎝ 3300円〜。

問い合わせ先:0264-58-2041
時間:9:00~17:00
定休日:火曜
所在地:南木曽町吾妻4689-239
アクセス:JR中央本線南木曽駅から車20分

【木曽が大切にする水そして馬】自然がつくり出す唯一無二の景色 透き通るブルー&グリーンの輝き

木曽の山々が湛えた水は、森と木と人々の暮らし、さまざまな命を支え、多くは木曽川と合流して海を目指す。谷間には美しい渓谷があり、代表的なスポットの一つが阿寺渓谷だ。〝阿寺ブルー〟と呼ばれる天然の深く青い清流が美しい。
あわせて神秘的な場所として地元の方に愛されているのが、岐阜県境に近い柿其渓谷。秘境のような険しい沢の道を歩けば、高所から眺める巨大な牛ヶ滝は圧巻。雨が降っても濁らないといわれるエメラルドグリーンの滝壺は、まさに〝柿其グリーン〟。思わず入りたくなるほどだ。


阿寺渓谷

柿其渓谷 写真/木曽観光連盟


阿寺(あてら)渓谷

約15kmにわたって広がる美しい渓谷で、“阿寺ブルー”と呼ばれる天然の深い青色の清流。透明度の高い淵や滝など、見どころが点在している。

問い合わせ先:0264-55-3080(大桑村産業振興課)
住所:大桑村野尻
アクセス:JR中央本線野尻駅から徒歩20分(渓谷入口)


柿其(かきぞれ)渓谷

阿寺渓谷と並び、木曽路にある渓谷でも特に美しいと知られる場所。長さ35mの「恋路のつり橋」から遊歩道を歩けば、落差25mの牛ヶ滝の壮観に出会える。秋には紅葉も美しい。見頃は10月下旬〜11月上旬。

問い合わせ先:0264-57-2727(南木曽町観光協会)
住所:南木曽町読書本谷
アクセス:JR中央本線十二兼駅から車15分(渓谷入口)


旅の最後に、どうしても会っておきたい存在が木曽馬だ。一時は絶滅の危機に瀕した希少な日本の在来馬で、小柄で短い足がなんとも愛らしい。それでいて足腰が強く、山岳地帯の生活に適応してきた。古くから農耕や運搬、軍馬として、地域の人々と生活をともにしてきたという。
開田高原の「木曽馬の里」で広大な牧場で馬たちを眺め、遠いむかしから続く山の暮らしに思いを馳せながら、心の安らぎも感じていた。

木曽が大切にしてきた木、森、水、動物にふれ、旅人を温かく迎え送り出してきた宿場をあとにする。再び駅で列車を待つとき、ふと気づくのだ。心身の新たな潤いと活力に。


木曽馬の里

長野県の天然記念物である木曽馬は、体高130㎝ほどと小柄で温和な性格。ふれあえば、険しい山間地域で生きてきた馬たちの力強さを感じることができる。

問い合わせ先:0264-42-3085
時間:8:30~16:30
定休日:無休
料金:見学無料
所在地:木曽町開田高原末川5596-1
アクセス:木曽福島駅から車25分


木曽エリアの観光情報について
詳しくはこちら


  • 提供/木曽観光宣伝協議会
  • 取材・文/さつま瑠璃
  • 撮影/河﨑夕子(yOU)
  • 本記事は、月刊誌『旅の手帖』2024年11月号からの転載です

旅の手帖 2024年11月号

旅の手帖』は、旅の楽しさ、日本の美しさを伝える旅行雑誌です。

大特集「秘湯、絶景、美味…全部自分だけの時間 秋のひとり旅」。
お買い求めは、全国の書店・書店のウェブサイトで。

価格    880円(税込)
発売日    2024.10.10
サイズ/判型    A4変型判
雑誌コード    05907-11


詳細・ご購入はこちら

トレたび公式SNS
  • X
  • Facebook
  • Instagram