この週末は列車で温泉旅へでかけませんか?
仕事に家事に人間関係に……現代人はみんなちょっとお疲れ。そんな毎日を送る人に“何もしなくていい”週末に列車で行ける温泉旅を提案します。好きなときにお風呂に入って、待っていればおいしいご飯が出てきて、移動に列車を選べば乗っているだけで目的地まで運んでくれます。たまには日常を忘れてのんびり、自分にご褒美をあげよう。きっと明日からも頑張ろう!と思えるはず。
- ※新型コロナウイルス感染症の影響により、列車やバスの運休や変更、施設の営業変更等が発生することがあります。JRニュースや運行会社、および各施設のHP等をご確認ください。
お茶と美肌湯でアンチエイジング
香りや旨みが強く、味わい深い嬉野茶。お茶の産地でもある嬉野の地に湧くのが「日本三大美肌の湯」として知られる嬉野温泉です。
『肥前国風土記』(713年)に「東の辺に湯の泉ありて態(よ)く人の病を癒す」と記された古湯で、開湯は1300年以上前。無色透明でぬるぬるとした肌触りが特徴的な九州屈指の名湯です。
美肌の湯に浸かり、抗酸化・抗菌力に優れたお茶を飲めば体の中からも外からも健康になれるはず。さらに400年の歴史をもつ「肥前吉田焼」の窯元に出かけてお気に入りの器探しを。そんなよくばり旅の始まりです。
温泉湯豆腐から紐解く“美肌の湯”
嬉野温泉に伝わる名物「温泉湯豆腐」には、美肌の湯のヒミツが隠されています。
温泉水で豆腐を炊くと、グツグツと豆腐が踊り出し、煮汁が豆乳のように濁っていき、やがてトロトロになるのです。嬉野温泉は重曹成分を含むアルカリ性。温泉成分が豆腐のたんぱく質を分解してこのような状態になるわけです。
ランチで向かった先は「佐嘉平川屋」。
佐賀県産の「フクユタカ」を使った温泉湯豆腐定食を注文。
この店では、温泉水と同じ成分の調理水を使っているそうで、沸騰すると調理水が徐々に白く濁っていきました。
トロトロに溶けた温泉湯豆腐
鍋の中には豆腐だけでなく、白菜やねぎ、人参、しめじなどたっぷりの野菜を入れて、お鍋仕立てで楽しむことができます。擦った白ゴマを入れた胡麻だれやポン酢がよく合います。〆は旨味が溶け込んだスープを雑炊にしていただきました。
今や「嬉野といえば温泉湯豆腐」というイメージはかなり定着してきたと思いますが、通販でも買えるようになったのは、佐嘉平川屋の「温泉とうふ用調理水」が開発されてから。2017年に、発売30周年を迎えたといいますから、この30年間で知名度がアップしたのではないでしょうか。
専用の豆腐と調理水がセット販売されており、お中元やお歳暮など贈答用としても喜ばれています。
お取り寄せできる温泉湯豆腐のパッケージ
佐嘉平川屋 嬉野店
住所 | 佐賀県嬉野市嬉野町大字下宿乙1463 |
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問い合わせ先 | 0954‐43‐1241 |
時間 | 9:00〜18:00(L.O.17:00) |
定休日 | なし(年末年始) |
交通アクセス | JR武雄温泉駅よりJRバスで約30分、嬉野温泉バスセンターより徒歩で約14分 ※今回宿泊の旅館大村屋より徒歩で約8分(車で約2分) |
URL | http://www.saga-hirakawaya.jp |
音楽と本に魅せられて
豆腐もトロトロにするほどの美肌湯への期待を胸に、到着したのは旅館大村屋。
老舗の風格漂う大村屋の玄関入口
この宿は、大村藩の脇本陣(大名や旗本などが泊まる本陣に次ぐ格式の宿)だった宿。現存する文献では、1805 (文化2)年に、戯作者・大田南畝の『小春紀行』に「ゆきゆきて嬉野の宿につく。主を大村屋という、北川兵次郎なるものなり」と記されていることから、文化2年以前には創業していたようですが、1922(大正11)年の大火によって宿帳などが焼失し、詳しいことはわからないそうです。
「天保元年」の印がついた敷石が出てきたことから、現在は「創業天保元年」をうたっています。
アナログレコードを名機で聴く
「湯上がりを音楽と本で楽しむ」をテーマに、湯上がり処「湯けむりラウンジ」にたくさんのレコードと本が並んでいます。スピーカーは名機JBLオリンパス、アンプはマッキントッシュ。
「湯けむりラウンジ」。アナログレコードはお父さんの代からのコレクションも含めて約3000枚もあるのだとか
若旦那は音楽好きを通り越して、FM佐賀に自身の番組『レッツ ビートルズ!on Radio』をもっているほどの強者。幼い頃からビートルズの大ファンで、プロデューサー、ジョージ・マーティンと同じ飛行機に乗り合わせ、サインをもらいに行った時に、「君は次世代のビートルズ伝道師だ」という嬉しい言葉をもらったそう。
客室でも音楽三昧
この日宿泊したのは客室番号214、半露天風呂付き和洋室「芙蓉」。
12畳ほどの和室の窓辺にウレタンのソファマットが置かれ、和洋ミックスのリノベーションが施された居心地のよい空間です。
居心地のよい大村屋の客室「芙蓉」
Bluetooth対応のCDプレーヤーからJAZZが流れ、ベッドルームには寝心地最高のシモンズのベッドが置かれています。木箱にはかわいらしい肥前吉田焼の茶器、作りつけの棚にBOOKエリアが設けられています。27室ある客室のうち温泉付きは9室で、客室でも美肌湯を楽しめます。
貸切風呂は4タイプ、自家源泉をかけ流し
2019年秋に新たに自家源泉が追加され、よりぬるぬる感が強くなりました。
泉質はナトリウム-炭酸水素塩泉。90度を超える高温で、重曹の成分が肌を磨く美肌湯です。
浴槽は男女別大浴場のほかに、予約制の貸切風呂が4つ(13〜23時、1名50分1500円)あり、温泉は源泉かけ流しで湯船に注がれています。
美肌湯が源泉かけ流しで湯船に注がれる、大村屋の貸切風呂
写真は木づくりの浴室に丸い樽風呂が置かれた「新生の湯」。木のお風呂がよりリラックス効果を高めてくれます。
上品な盛り付けの料理にも大満足です
前菜、椀物なども上品な味わいで、有明海や長崎の漁港から届く魚介も新鮮!
目にもきれいなグリーン色の鍋はお茶しゃぶ(嬉野茶のしゃぶしゃぶ)です。
夕食に出てくる「嬉野茶のしゃぶしゃぶ」
お茶にはビタミンCが含まれているので、豚肉の余計な脂を落としてさっぱりといただくことができます。
「The Tea Salon」で特別な時間を過ごす
この宿では、日本茶のイベントも行っています。
嬉野温泉で2019年から本格スタートした「嬉野茶時(うれしのちゃどき)」は温泉、嬉野茶、肥前吉田焼の3つの伝統文化を新しい切り口で楽しんでもらおうというプロジェクト。
その一環となるのが「The Tea Salon」です。
プロジェクトに参画する7人の茶農家(6人は実家が茶農家)のうちの1人が、茶師として目の前でお茶を淹れてくれる特別なプランで、10日前までに予約すれば、希望の日にちに開催できます。場所は「湯上り文庫」に設けられたティーカウンター。
この日、お茶を淹れてくれたのは永尾豊裕園の永尾裕也さん。
バーテンダーさながら、ビシッとした衣装に身を包み、こちらも背筋が伸びます。
「バーテンダーの経験は全くないけれど、メニューによってはシェイカーを振ります」と 永尾豊裕園の永尾裕也さん
奥深い味わいが口の中に広がる「嬉野茶」は、茶葉の形が丸くよれた形状の玉緑茶(たまりょくちゃ)。まろやかな旨みと甘みが特長です。
嬉野茶の歴史は1440年頃、明から渡来した陶工がお茶を自家栽培したのが起こり。
1504年、同じく中国から来た「紅令民」が南京釜を持ち込み、釜炒り茶の製法を伝えたのが嬉野の釜炒り茶の始まりだそうです。
最近は、安いお茶の需要が広がった一方で、急須でお茶を飲む習慣が少なくなったことから、日本茶の魅力を伝えていこうと、30〜40代の若手茶農家が立ち上がり、このような形で生産者が直にお客さんに接しているのだとか。
嬉野茶の生産量は、全国のお茶の生産量の2%弱程度と希少。
関東に住む私などはほとんど飲んだことがありませんでした。
この日出てきたお茶は煎茶おくゆたか、ひき茶ラテ、炒り砂ほうじ茶の3品。水出しの煎茶がここまで甘く、おいしいことを生まれてはじめて知りました。
おいしい甘味も用意されていますので、優雅なひと時を過ごすことができます。
旅館大村屋
住所 | 佐賀県嬉野市嬉野町大字下宿乙848 |
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問い合わせ先 | 0954‐43‐1234 |
時間 | チェックイン 15:00/チェックアウト 10:00 |
定休日 | 不定休 |
交通アクセス | JR武雄温泉駅よりJRバスで約30分、嬉野温泉バスセンターより徒歩で約10分 |
値段 | 1泊2食13000円(税別)〜、The Tea Salon5000円(要予約) |
URL | http://www.oomuraya.co.jp |
嬉野温泉の癒され小話
料金はリーズナブル、個人での旅行にサイズ感がちょうどいい大村屋旅館。1泊後、精算するときに手渡されたのは、「内服飴」と書かれた小袋。
「アメのち元気」の文言とともに、まるでお薬を処方された時のような袋の中に飴玉が入っていました。
袋には、「どうぞ今後とも当館、大村屋をごひいきくださいます様切にお願いいたします おかみより」の文言とともに、飴の効用として、「大村屋での甘い思い出がよみがえります」「日常生活へ戻るための良い活用剤になります」「この袋は2名様分の大浴場入浴半額券としても御利用頂けます」と書かれていました。飴の渡し方一つにもセンスの光る、気の利いた宿でした。
お茶と器とバリアフリーを巡る旅
レンタサイクルで嬉野茶を感じる旅へ
「嬉野茶時」でコラボレーションしているお店を訪ねてみました。
シモムラサイクルズで取り組むのは「茶輪(ちゃりん)」。レンタサイクルでお茶を片手に散策してもらおうと茶商(お茶の問屋さん)と自転車屋さんが協力して2019年4月にスタートしました。
いざ、オリジナルの水出し茶を持って、嬉野温泉街のサイクリングへ。
13の茶農家の茶葉から好きなものを選び、茶輪ボトルに入れてお茶づくり。オーナーに実演してもらいました
11~18時の間であれば自転車はいつ返してもOK。地図をもらい、好きな茶農家のお茶を入れてサイクリングに出かけます。地図に載っている13カ所の茶葉ステーションに行けば200円で新しいお茶も補給できます。
おすすめコースは美肌の神様である豊玉姫神社に参拝し、轟の滝できれいな滝を見ながら一服。永尾製茶問屋や岸川製茶園でお茶を補給して、うれしの茶交流館「チャオシル」で釜炒り茶のアイスを食べて帰ってくると、1時間30分〜2時間程度のショートトリップができます。途中、疲れたら温泉街の中心部にある無料の「シーボルトのあし湯」で足湯をすれば、翌日の筋肉痛の予防になりますよ!
シモムラサイクルズ
住所 | 佐賀県嬉野市嬉野町大字下宿乙938−1 |
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問い合わせ先 | 0954‐27‐7733 |
時間 | 11:00〜18:00 |
定休日 | 水曜・不定休 |
交通アクセス | JR武雄温泉駅よりJRバスで約30分、嬉野温泉バスセンターより徒歩で約7分 |
値段 | ママチャリ800円、クロスバイク1800円、ロードバイク2800円など(お茶1杯込) |
URL | http://www.shimomuracycles.com |
「えくぼとほくろ」で掘り出し物を探す!
嬉野の「肥前吉田焼」は有田焼と同様に400年の歴史を誇る焼き物です。
1577年(天正5年)、吉田村を流れる羽口川の上流・鳴谷川の川底に、我が国最初の陶鉱石といわれる白く光る石を発見したのが始まりです。
13軒ほどある窯元(肥前吉田焼窯協同組合加盟は6軒)は生活雑貨を中心に繁栄し、今でも食器や茶器など家庭で使うものを多く作っています。「水玉模様」の焼き物で有名なのが、副千(そえせん)製陶所です。
水玉模様の下絵が描かれた茶器が並んでいます
工場見学を予約すれば、石膏型に水と粘土を混ぜた泥状の液体を注ぎ入れて成形する「鋳込」をする様子や、素焼きした器に下絵を描く職人さんを間近に見学できます。
工場はさながら秘密基地のよう。器づくりの工程を垣間見ることができて、すごく楽しい時間でした。
所狭しと商品が並ぶ副千製陶所の工場
私の目当ては「えくぼとほくろ」。
いわゆる規格外品のお得コーナーです。
小さな窪み(えくぼ)が出来たり、鉄分などが黒い点(ほくろ)になってしまった商品が一定数出てしまうのは仕方がないこと。これを、産業廃棄物として廃棄せず、誰かに使ってもらおうと、6つの窯元が「えくぼとほくろ」の看板を出して、お得な価格で提供しています。
私は茶器と湯呑みを購入しました。
事前に予約してから出かけましょう。
副千製陶所
住所 | 佐賀県嬉野市嬉野町大字吉田丁4116‐14 |
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問い合わせ先 | 0954‐43‐9704 |
時間 | 8:00〜17:00 |
定休日 | 日曜 |
交通アクセス | JR武雄温泉駅よりJRバスで約30分、嬉野温泉バスセンターより祐徳自動車路線バス(吉田線)で約15分 上皿屋バス停より徒歩約4分 |
値段 | 工場見学は無料(要予約) |
URL | https://www.ktknet.ne.jp/yoshidayaki/s-8-soesen.html |
車いすで入浴できる。バリアフリーの貸切風呂
最後にやってきたのは、嬉野温泉の公衆浴場「シーボルトの湯」。
長崎に「鳴滝塾」を開きオランダ医学を伝えたドイツ人医師・シーボルトの名を冠しているのは、嬉野温泉が江戸時代には長崎街道の宿場町として栄え、シーボルトもたびたび訪れたから。
2010年4月にできたこの施設は木造2階建て。
オレンジ色の屋根をもつ大正ロマン風の外観が目を引きます。
温泉街の中心地にある公衆浴場「シーボルトの湯」
館内には男女別大浴場のほか、バリアフリーに対応した貸切風呂が2つあり、50分2100円で入れます。
「さくら」はバリアフリーではないですが「ふじ」はバリアフリー設計で、車椅子の入浴が可能です。
「バリアフリーツアーセンター」で介助者を予約して、家族で入浴しにくる人もいるそうです。
車椅子に座ったまま、ロープで吊り上げて温泉に入ることができる画期的な貸切風呂は、ほかではあまり見たことがありません。車椅子の方でも気軽に温泉を利用できるのは、嬉しいですね。
車椅子のまま温泉に入ることができる貸切風呂「ふじ」
シーボルトの湯
住所 | 佐賀県嬉野市嬉野町大字下宿乙818‐2 |
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問い合わせ先 | 0954‐43‐1426 |
時間 | 6:00〜22:00 |
定休日 | 第3水曜(祝日の場合は翌日) |
交通アクセス | JR武雄温泉駅よりJRバスで約30分、嬉野温泉バスセンターより徒歩で約7分 |
値段 | 大人(一般)420円、子ども(一般)210円 |
URL | https://www.city.ureshino.lg.jp/kanko/siebold.html |
この旅の行程
(行き)JR特急みどり7号 博多駅10:32発→武雄温泉駅11:47着(所要時間:1時間15分)
武雄温泉駅南口11:57発→嬉野温泉バスセンター12:37着(所要時間:40分)
(帰り)嬉野温泉バスセンター15:18発→武雄温泉駅南口15:51着(所要時間:33分)
JR特急みどり22号 武雄温泉駅16:29発→博多駅17:34着(所要時間:1時間5分)
知っているとちょっと楽しい「鉄道豆マメ知識」【グリーン車】
画像はイメージです
今回は「みどり」の列車名にちなんで、グリーン車についての豆知識です。「みどり」にもグリーン車が連結されています。列車の「グリーン車」は、運賃や特急・急行料金以外に別途料金が発生する、特別な車両です。ところで、なぜ「グリーン車」と呼ばれているのでしょうか。それは、JRの前身である国鉄の頃、2等級制時代の一等車の窓の下に淡緑色(若葉色)の帯が塗られていたこと、また一等車の硬券の色がグリーンであることにちなんだといわれています。車体にある、四つ葉のクローバーを模した「グリーンマーク」は、乗る人に幸運が訪れてほしいという思いが込められているのだとか。素敵ですよね。次回の旅は、グリーン車で“のんびりご褒美旅”しませんか。移動も楽しい時間になりますように。
著者紹介
- ※写真/(メインビジュアル)嬉野茶時、野添ちかこ、(車両写真)交通新聞クリエイト
- ※掲載されているデータは2020年6月現在のものです。変更となる場合がありますので、お出かけの際には事前にご確認ください。