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2020.10.30旅行【静岡・寸又峡温泉編】旅行作家・野添ちかこが列車で行く! のんびりご褒美温泉旅

この週末は列車で温泉旅へでかけませんか?

仕事に家事に人間関係に……現代人はみんなちょっとお疲れ。そんな毎日を送る人に“何もしなくていい”週末に列車で行ける温泉旅を提案します。好きなときにお風呂に入って、待っていればおいしいご飯が出てきて、移動に列車を選べば乗っているだけで目的地まで運んでくれます。たまには日常を忘れてのんびり、自分にご褒美をあげよう。きっと明日からも頑張ろう!と思えるはず。

  • 新型コロナウイルス感染症の影響により、列車の運休や変更、施設の営業変更等が発生することがあります。JRニュースや運行会社、および各施設のHP等をご確認ください。

静岡の美女づくりの湯へ

静岡県の秘境・寸又峡(すまたきょう)温泉は、南アルプスの麓から湧く “美女づくりの湯”。ミルキーブルーの湖を眼下に望む「夢のつり橋」は2012年、世界一の旅行口コミサイト「TripAdvisor」の「一度は渡ってみたい世界の徒歩吊り橋10選」にランクイン。トップシーズンには3時間待ちもザラという人気のつり橋です。


東海道新幹線N700A

寸又峡温泉へのアクセスは、名古屋から行く場合は東海道新幹線、東海道本線を乗り継いで、金谷駅から大井川鐵道を利用します。
東海道新幹線の豊橋駅~浜松駅間では車窓に浜名湖を望むことができます。湖に架かる橋を渡る瞬間は、まるで湖の上を走っているような気分に。車窓からでないと見ることのできない貴重な風景が楽しめます。

大井川に沿ってゆるやかに北上する大井川鐵道の車窓からは大井川の雄大な景色とのどかな茶畑が一面に広がっています。いまでは珍しい硬券乗車券に鋏でパッチンときっぷを切ってもらって乗車すれば、旅気分も一気に高まるはず。大井川鐵道といえばやはりSL。人気のSLやきかんしゃトーマス号に乗るなら、運行時間を確認して早めの予約をしましょう。「SLかわね路1号」は年間300日以上、冬季を除いてほぼ毎日運行しています。寸又峡温泉は最寄りの千頭駅からバスで移動しなければならないため、決してアクセスがいい温泉地とはいえませんが、秘境だからこそ出合える奥大井の自然は忘れられない思い出づくりができることでしょう。

ミルキーブルーの「夢のつり橋」を渡ろう

寸又峡温泉にある「寸又峡プロムナードコース」「グリーンシャワーロード」「外森山ハイキングコース」の3つのハイキングコースのうち、夢のつり橋へ行くのは「寸又峡プロムナードコース」です。かつてこのあたりは木材の切り出しを行なっていたためトロッコ列車が走っていて、夢のつり橋へ行く遊歩道は、その軌道敷跡だといいます。


寸又峡プロムナードコースの入口 寸又峡プロムナードコースの入口

車止めを越えた先には、「寸又峡環境美化募金に御協力ください」と有人の募金箱がありました。協力金を払って、山道を歩き、しばらく進んで階段を下りると、ミルキーブルーの美しい湖が見えてきました。


夢のつり橋の行列 夢のつり橋前の行列

この日は20人くらいが並んでいたでしょうか。

あとで寸又峡の土産物屋のおばちゃんから聞いた話によると、「今年のお盆は2時間30分待ちだったのよ。紅葉の季節などトップシーズンは3時間待ちはザラ」だそうなのでこの日はむしろ空いている方なのでしょうか。10〜15分程度の待ち時間でつり橋を渡る順番が回ってきました。

橋の上の定員は10人と書かれていて、行列は少しずつしか進みません。


夢のつ橋 夢のつり橋。足元を見るとなかなかスリリング

橋を渡る人数を数えて、いざスタート!
大井川の支流、寸又川へと注ぐ大間ダムが、なぜこんなにきれいな色をしているのかというと、説明看板には「チンダル現象」によるものだと書かれていました。

ダム湖の水は澄んでいて、ほぼ無色透明。
しかし微粒子が存在するため、光の波長の短い青い色だけを反射することで青色に見えるんだとか。天気によって、エメラルドグリーンに見えたり、コバルトブルーに見えたり、降り注ぐ光の加減によって色は変わるんだそうです。

この日は乳白色に濁っているようにもみえるミルキーブルーでした。
つり橋の中央部分には板が渡されて歩きやすくなっているものの、ちょっとでもよろけようものなら、隙間に落っこちてしまいそう。10人が渡るとたまに揺れて、なかなか怖いです。


夢のつり橋の足元 高さ8メートル、長さ90メートル。足元を見ると、こんな感じの隙間が空いています

橋の中ほどで、カップルが恋の成就を祈ると叶う」なんていう逸話もあって、若いカップルは写真撮影に熱中。何枚も撮影しているものだから、なかなか前に進みません。混雑するのはこんなところにも要因があるのかもしれません。

私もつり橋を渡りながら、記念写真をパチリ。美しい湖面はSNS映えしますので、何枚も写真撮影するカップルの気持ちもわかります。

かつては山仕事や集落へと移動するために利用されていた生活のための橋が、いまはこんな観光スポットとして脚光を浴びているんですね。

夢のつり橋を渡ったあとは急坂が続きます。
くろう坂」という名前通りに、上るのに苦労します(笑)。…途中で歩き疲れて休憩する人が多数いました。

飛龍橋(ひりゅうきょう)は、かつてはトロッコが走っていた高さ70メートルのアーチ橋。深い渓谷を望む絶景スポットで、紅葉もきれいだそうです。

遊歩道だけなら楽勝ですが、途中、きつい上り坂もありますので、足元はサンダルやパンプスではなくてスニーカーや登山靴で行きましょう。

私は往復1時間30分程度で行けました。


夢のつり橋

住所 静岡県榛原郡川根本町千頭寸又峡
問い合わせ先 0547‐59‐2746(川根本町まちづくり観光協会)
時間 日の出〜日の入り(明るいうちに散策しましょう)
定休日 なし
交通アクセス 大井川鐵道千頭駅から寸又峡温泉行き路線バスで約40分、終点寸又峡温泉下車。徒歩約20分
値段 無料
URL http://yumeno-tsuribashi.com/index.html

美女づくりの湯でなんちゃってアウトドア

夢のつり橋よりも奥に「湯山」という地域があり、古くから川の水にお湯が混じっていることが知られていました。明治の頃には共同浴場などがあったそうですが、一度は途絶えてしまった山奥の秘湯。

戦後、この温泉を掘削し直して、下流まで引湯し、新しくできあがったのが寸又峡温泉です。

温泉旅館らしからぬ足湯カフェをもつゲストハウスがあることを知って、ずっと訪ねてみたいと思っていました。客室数2室のみの「晴耕雨読(せいこううどく)ヴィレッジ」です。


晴耕雨読ヴィレッジ 「晴耕雨読ヴィレッジ」。寸又峡プロムナードコースに最も近い宿泊施設です

この宿、夕食は屋外でバーベキューができます。しかも手ぶらでバーベキュー。
「キャンプがしたいけれど、準備は面倒くさい」「なんちゃってアウトドアがちょうどいい」という私にぴったりだと思って、早速予約を入れました。

チェックインしたらまずは、足湯でのんびり

寸又峡出身の奥様と東京・野方のせんべい屋さん出身のご主人が展開する晴耕雨読グループは、「寸又峡を盛り上げよう」と温泉街の中心地に2011年、カフェ&ショップをオープン。さらに2015年に寸又峡プロムナードコースの入口近くに、足湯カフェとゲストハウスをつくりました。

5年前はまだ、グランピングなどという言葉が一般的ではなかった時代。キャンプやグランピングと異なり、テントではなくて建物内に宿泊できるから、私たちのようなアウトドア初心者も安心して滞在できます。

最も感動したのが、足湯です。


晴耕雨読 足湯 晴耕雨読ヴィレッジにある足湯カフェ。日帰り利用もできます

かけ流しの足湯は硫黄分たっぷりで、温度はかなりぬるめの設定です。洋服を脱がずに何時間でも入っていられるから、ビールを飲んだり、買ってきたスナック菓子を食べながら、パソコンを開いて仕事をしたり、本を読んだり……。目の前は、視界が開けていて、開放感たっぷり。癒されます。


晴耕雨読 客室 こちらは2名用の客室。一人でも宿泊できます

ゲストハウスの客室は2室のみで、2名または4名用です。
2名用の客室は黒いソファが就寝時にベッドになるソファベッド仕様。トイレと洗面所は共用部を利用します。といっても、他に利用者はいないので、専用みたいなものですが。シャンプー・コンディショナー、ボディソープ、タオル、ドライヤー、歯ブラシなど一通りのアメニティは揃っていますが、浴衣はないのでルームウエアを持参しましょう。

「夕食時間以外は持ち込みも自由です。ドリンクやおつまみなど買ってきてください」と持ち込みには明確な線引きがあるので、わかりやすくていいですね。2名用の客室にある足湯(21時まで加温)は、プライベート空間が保たれていますので、早起きしてテレワークしたら気持ちよさそうです。


晴耕雨読 4名用の客室 家族やグループで利用できる4名用の客室

4名用の客室は2段ベッドが2つとハンモックがあって、家族連れやグループが楽しく過ごせそうな造りです。こちらはトイレも室内にあります。

かけ流しの貸切風呂に入り放題


晴耕雨読 貸切風呂 美肌の湯がかけ流しで注がれています

温泉はpH9.1単純硫黄泉。「美女づくりの湯」といわれるだけあって、ぬるぬるつるつるする感触です。アルカリ性で皮膚の角質をごっそり落とし、硫黄分は美白効果もあります。

同行の夫は足の爪が死んでいたのですが、ゆっくりと足湯をしているうちに、死んでいた爪がはがれ落ち、一皮むけてきれいになったそうです。

寸又峡温泉の宿泊施設は加温循環しているところが多いですが、
晴耕雨読ヴィレッジの温泉は、温度が下がっているため加温はしているものの、循環ろ過はしていないので、源泉そのものの個性を楽しめます。

「今日は硫黄の湯の花がいっぱいでています」とオーナーが話す通り、お湯の中に湯花を見ることができました。


硫黄の湯花が出ていることもあります

3つある貸切風呂のうち、宿泊者は夕食後から専用の貸切風呂が自由に使えます。

2人部屋の方は、トイレ、洗面所が客室内にはないのですが、館内のトイレ、貸切風呂の洗面所が使えるので問題なし。館内を広々と使えて、一棟貸し切りに近い形でしょうか。


湯口は大井川鐵道のSLがモチーフになっていてかわいい


脱衣所の壁もアートに彩られていて和みます

風を感じて、手ぶらバーベキュー

夕食はバーベキューです。


晴耕雨読 夕食 すべて用意されたオシャレな雰囲気のバーベキュー

何も準備をせずに、火も起こさず、全部おまかせの手ぶらバーベキュー。
アウトドア気分だけ味わえるのがいいですね。

前菜はソーセージと黒はんぺん、そしてせんべい。
せんべい屋さんが運営しているというのがわかります(笑)。

メインは仙台牛と豚肉と鶏肉をトリプルで。
キャベツやにんじん、なすなどの野菜もすべてカットしてあるので、焼くだけです。
炭火の上に網をのせたテーブルで快適に食事できます。


肉と野菜 肉も野菜もすべてカット済み

飲み物はハートランドビールやグラスワイン、スパークリングワインなどが注文できます。
オシャレなLEDランプはスマホからBluetoothでデータを飛ばして、好きな音楽が聴けるようになっていたり、いろいろと楽しい工夫が凝らされていました。

夕食後は、星空を観察できるテントで、寸又峡の星空を目一杯満喫できます(新型コロナウイルス感染症の影響により、現在はテントの設営は休止中)。

木のプレートのヘルシー朝食

翌朝の朝食は木のプレートの上にサラダやフルーツ、ヨーグルト、スープなどがのったヘルシーメニュー。シチューパンがおいしかったです。


朝食 ヘルシーメニューの朝食

いわゆる旅館の定番メニューではなくて、気負わずに滞在できるゲストハウスの朝食メニュー、新鮮でした。

この木のプレート、なかなか素敵。温泉街にあるSHOP&CAFE「晴耕雨読」に木のプレートが売っているというので購入して帰りました。SHOPではおせんべいやかわいい雑貨類なども売っています。

併設のハンモックカフェ(土日、祝日のみ営業)ではハンモックに揺られながら、お茶ができます。


ハンモックカフェ ハンモックのあるカフェ、珍しいですね


晴耕雨読ヴィレッジ

住所 静岡県榛原郡川根本町千頭375
問い合わせ先 0547‐59‐2333(宿泊予約はウェブサイトからのみ受付)
時間 チェックイン 15:00/チェックアウト 10:00
定休日 月・火・水曜
交通アクセス 大井川鐵道千頭駅から寸又峡温泉行き路線バスで約40分、終点寸又峡温泉下車。徒歩約6分
値段 1泊2食12,000円(1室2名利用時、税込)〜
URL http://seikou-udoku2012.com/village/index.html

山のランチ、わさびそばと鹿肉

立ち寄りでランチを食べたのが、晴耕雨読ヴィレッジの隣にある「手造りの店さとう」。

わさびの茎を使ったさっぱりとしたわさびそばは800円、珍味鹿刺800円、こんにゃくおでん500円など。どれも山らしいメニューです。

歩いた後においしいものをお腹いっぱい食べて、ぜいたくな休日を過ごしました。
寸又峡温泉はひとり旅よりもカップルや夫婦、家族で訪れるのがよさそうです。


わさびそば わさびそば


鹿肉とこんにゃくおでん 鹿肉とこんにゃくおでん


手造りの店さとう

住所 静岡県榛原郡川根本町千頭372
問い合わせ先 0547‐59‐2387
時間 7:00〜18:00
定休日 なし
交通アクセス 大井川鐵道千頭駅から寸又峡温泉行き路線バスで約40分、終点寸又峡温泉下車。徒歩約6分
値段 わさびそば800円など
URL http://okuooi.sakura.ne.jp/eat/details.php?id=28

この旅の行程

(行き)JR東海道新幹線こだま708号 名古屋駅9:08発→浜松駅9:53着(所要時間:45分)

JR東海道本線 浜松駅10:08発→金谷駅10:49着(所要時間:41分)

大井川鐵道本線 金谷駅11:04→千頭駅12:18着(所要時間:1時間14分)

路線バス 千頭駅13:20→寸又峡温泉入口13:58(所要時間:38分)

(帰り)路線バス 寸又峡温泉入口11:22発→千頭駅12:00着(所要時間:38分)

大井川鐵道本線 千頭駅発12:45→金谷駅13:57着(所要時間:1時間12分)

JR東海道本線 金谷駅14:14発→掛川駅14:28着(所要時間:14分)

JR東海道新幹線こだま727号 掛川駅14:36発→名古屋駅15:37着(所要時間1時間1分)

知っているとちょっと楽しい「鉄道豆マメ知識」【ドクターイエロー】

今回の旅程では、名古屋駅から浜松駅まで東海道新幹線に乗車します。東海道新幹線の列車といえば、白地に青帯ですよね。
初代0系から最新のN700Sまで受け継がれてきた伝統のカラーです。でも東海道新幹線には、こんな列車も走っているのをご存知ですか?


この列車は「新幹線電気軌道総合試験車」といい、実際に走りながら、線路や電気設備の点検をしています。
この役割と車体の色から「ドクターイエロー」の愛称で親しまれています。

また、鉄道ファンのなかでは「幸せを運ぶ黄色い新幹線」としても有名。それはなぜでしょうか。
ドクターイエローは、定期運転ではないうえに運転時刻は公表されておらず、見ることができた人はラッキーで、さらに黄色は幸せの色ともいわれているため、だそうです。

もし東海道新幹線で黄色の列車を見たら、あなたにも幸せが訪れるかも? 移動も楽しい時間になりますように。


著者紹介

野添ちかこ

温泉と宿のライター/旅行作家

観光の専門紙記者を経て、2006年フリーに。新聞、雑誌、WEB、テレビ、ラジオなど各種媒体で温泉と宿の情報を紹介。現在、NIKKEIプラス1(日本経済新聞土曜日版)第3週に「湯の心旅」連載中。著書に『千葉の湯めぐり』(幹書房)。3つ星温泉ソムリエ、温泉入浴指導員、温泉利用指導者(厚生労働省認定)、国立公園満喫プロジェクト有識者会議委員(環境省)、岐阜県中部山岳国立公園活性化プロジェクト顧問、宿のミカタプロジェクトチーフ・アドバイザー。

  • 写真/野添ちかこ、(車両写真)交通新聞クリエイト
  • 掲載されているデータは2020年10月現在のものです。変更となる場合がありますので、お出かけの際には事前にご確認ください。
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