トレたび JRグループ協力

2021.01.15旅行北海道・室蘭本線 途中下車の旅 ~1泊2日で全部乗る~

北海道の圧倒的な自然と開拓民の足跡を巡る

室蘭本線は、北海道長万部(おしゃまんべ)町の長万部駅から岩見沢市の岩見沢駅までの本線と、室蘭市の東室蘭駅から室蘭駅までを結ぶ支線からなる。本線は43駅・211.0キロメートル、支線は5駅・7.0キロメートルと、非常に長い路線。沿線には洞爺湖や有珠山(うすざん)などを望むサイロ展望台、地平線が弧を描いて地球の丸さを実感できる地球岬展望台、のぼりべつクマ牧場にウトナイ湖と、北海道の圧倒的な自然を満喫できるスポットが点在。

一方で、この地唯一の近世史跡に指定されたヲシャマンベ陣屋跡に始まり、鉄の街・室蘭をはじめとする開拓民の営みをうかがい知れる場所も少なくない。長距離の移動でかなりタイトになるが、温泉好きにはたまらない洞爺湖温泉や登別温泉など、早朝から名湯に浸かれる施設があるので、体を癒やしつつ、あえて「1泊2日」で挑戦してみよう。ゆったりとした旅では見えてこない景色があるかも。

室蘭本線(支線を含む)に沿ったこの長距離を、途中下車しながら1泊2日で楽しむチャレンジ企画。
果たして回りきれるのか……

長万部駅からスタート

朝の6時。まずは長万部駅の「ヲシャマンベ陣屋跡」へ向かう。
長万部町の代表駅である長万部駅は、室蘭本線と函館本線の分岐駅。2030年度に予定されている北海道新幹線の札幌延伸時には停車駅となる。駅構内にはみどりの窓口やコインロッカーを整備。周辺にはスーパーマーケットやドラッグストア、商店街などがある。

ヲシャマンベ陣屋跡

海岸線警備のために設置された陣屋跡


1855(安政2)年、江戸幕府からを海岸線一帯の警備の命を受けた南部藩が1856(安政3)年に設置した分屯地。長万部海岸が砂漠遠浅のため外国船が容易に近づけないことから、陣屋の必要性がないとして翌年に自藩に引き上げた。今でも当時の堀や土塁の跡が残り、この地方唯一の近代史跡として、1974(昭和49)年に国の史跡にも指定されている。


ヲシャマンベ陣屋跡近くにある飯生(いいなり)神社。1773(安永2)年に松前藩が番屋を建て、その守り神として建立したことに始まる。1816(文化13)年に京都伏見稲荷神社(現在の伏見稲荷大社)を勧請。1926(大正15)年に現在地の敷地内高台に移転遷座した。祭神は天照大神(あまてらすおおみかみ)、大國主命(おおくにぬしのみこと)、倉稻魂命(うかのみたまのみこと)。


ヲシャマンベ陣屋跡

住所 北海道山越郡長万部町陣屋町
問い合わせ先 01377-6-7331(長万部観光協会)
時間 見学自由
交通アクセス JR長万部駅から徒歩約15分
URL https://www.osyamanbe-kankou.jp/seeing_leisure/culture.html

長万部駅から洞爺駅へ

6時半ごろの電車に乗り、長万部駅から内浦湾を沿うように進んでいく。途中には新辺加牛(しんべかうし)トンネルと礼文華(れぶんげ)トンネルの間にぽつんと建てられた、日本一の秘境駅としても知られる小幌駅が。その先もトンネルが続き、時折見える海岸線を進めば洞爺湖の玄関口・洞爺駅に到着する。

途中下車駅 洞爺駅

洞爺湖周辺観光の玄関口

1時間ほどして、洞爺駅に到着。特急北斗駅も停車する洞爺駅は、洞爺湖周辺の観光の最寄り駅。構内にはみどりの窓口やコインロッカーなどがあり、洞爺湖周辺の鳥瞰図や観光パンフレットなどが置かれている。駅前には2008年に行われた北海道洞爺湖サミットの記念モニュメントもある。ここからバスで移動して洞爺湖温泉街、さらにロープウェイを乗り継ぎ有珠山を覗いたあと、バスを活用してサイロ展望台へ。

サイロ展望台

洞爺湖や有珠山などの絶景が広がる


洞爺湖の西岸、洞爺湖を囲む大地の端にある。洞爺湖を間近で眺められるスポットのひとつで、約10キロメートルの湖に浮かぶ中島、その奥に有珠山や昭和新山など、洞爺湖の大パノラマが広がる。


展望台の手前にあるサイロと物産館。物産館の1階では洞爺湖周辺の定番商品からオリジナル商品までの土産がそろい、2階のレストランでは洞爺湖を望みながら食事を楽しむことができる。
また、1月中旬~3月中旬には敷地内に有料のスノーパークが登場する。スノーシューやスノーラフティングなど、雪の中で思いっきり遊ぼう。


サイロ展望台横の中庭ウッドデッキ前にある「CAFE balher(カフェバルハー)」。ソフトクリームやコーヒーなど、気軽にテイクアウトができる。


サイロ展望台

住所 北海道虻田郡洞爺湖町成香3-5
問い合わせ先 0142-87-2221
時間 8:30~18:00(11月から4月は~17:00)
定休日 無休
交通アクセス JR洞爺湖駅から車約15分
URL https://toyako.biz/

洞爺駅から輪西駅へ

移動距離の長い洞爺湖でたっぷり時間を使い、洞爺駅を出たのは11時前。左側の車窓に有珠山が現れてくる。海岸線を進むと、ホームに巨大な兜がある伊達紋別駅。内浦湾や駒ヶ岳などを望みながら南下していくと、製油所の巨大な工場や白鳥大橋などが見えてくる。東室蘭駅で一度降りて支線に乗り換えれば、ひと駅で輪西(わにし)駅。時間によっては乗り換え不要な室蘭行きもある。

途中下車駅 輪西駅

茶色い屋根の平屋の無人駅

輪西製作所の拡張計画によってたびたび位置を変えてきた、無人駅の輪西駅。駅周辺には製鉄所をはじめとした多くの工場があり、夜には美しい工業地帯のビューが楽しめる。鉄の街、物作りの街ならではの土産が買えるボルタ工房へ。見学が終わればお昼の時間にちょうどいい。室蘭のご当地グルメ・カレーラーメンを食べるのも楽しみだ。

ボルタ工房

鉄の街ならではのボルトやナットなどで作るかわいらしい人形


ボルタとは、鉄の街・室蘭市で作られているボルトやナット、ワッシャーなどをはんだづけした人形・ボルト人形の愛称。屑鉄工房の「ボルトマン」など、世界中のボルト人形を参考に制作されている。


ひとつひとつが工房製作スタッフによる手作りで、そのすべてにエピソードがあり、ストーリーを添えている。楽器を演奏していたり、ダンスをしていたり、何か考えていたりと、種類は豊富。勇ましい戦国武将のボルタや、カップルのボルタとナッティなどもあり、どれにしようか迷うのもまた楽しい。


ボルタの製作体験もできる。スタッフの指導の下、部品を曲げたり、はんだでつけたりしながら組み立てる。所要時間は40分~1時間ほど。旅の思い出にもぴったりだ。


ボルタ工房

住所 北海道室蘭市輪西町1-32-6
問い合わせ先 0143-47-8233
時間 10:00~15:00
定休日 日・月曜
交通アクセス JR輪西駅から徒歩約6分
URL http://www.tetsupro.com/bolta_site/index.html

輪西駅から母恋駅へ

かつては貨物がメインだった支線を進むと、左側には工場や石油のタンクなどが車窓に流れる。駅構内に「室蘭線発祥の地」記念碑がある御崎(みさき)駅の次が母恋(ぼこい)駅。

途中下車駅 母恋駅

名物駅弁の母恋めしを販売する

母恋駅は、木造駅舎で木の階段がある昭和レトロな駅。母恋とはアイヌ語の「ポクセイ・オ・イ」(ホッキ貝がたくさんあるところ)に由来する。駅ではホッキ貝の炊き込みご飯のおにぎりなどが食べられる駅弁・母恋めしの販売を行っている。母恋駅は毎年、母の日のある5月に「母の日記念乗車券」を発売することでも有名。ここから太平洋を見渡せる地球岬展望台へ徒歩で向かおう。

地球岬展望台

地球の丸さを実感できる展望台。雲海も見たい!


過去に『北海道の自然100選』や『あなたが選ぶ北海道景勝地』などで1位を獲得した北海道を代表する人気スポット。地球岬とはアイヌ語の「チケプ」(断崖)に由来する。約100メートルの断崖絶壁が続く地球岬の先端・海抜130メートルの地には灯台が、さらにその上に展望台がある。展望台から望めば、水平線が丸く見え、地球の形を実感できる。白亜の灯台と、太平洋と大空のブルーのコントラストが美しく、年間10万人以上が訪れるのも納得の絶景だ。


北太平洋の冷たい海水が入り込む4月下旬から7月にかけては海霧が発生する。切り立った断崖に押し寄せてくる雲海に包まれると、まるで空に浮いているようだ。


地球岬展望台

住所 北海道室蘭市母恋南町4-77
問い合わせ先 0143-23-0102(室蘭観光協会)
時間 見学自由
交通アクセス JR母恋駅から徒歩約35分
URL http://muro-kanko.com/see/chikyuumisaki.html

トッカリショ展望台

起伏に富んだ断崖絶壁の絶景は室蘭八景のひとつ


室蘭市南部の絵鞆半島にある景勝地。アイヌ語で「トカルイショ」(アザラシ岩)に由来し、往時は数多くのアザラシが見られたという。起伏に富んだ高さ約100メートルの荒々しい断崖絶壁で、青い空と海、草の色と相まった美しい景観が見渡せる。室蘭八景のひとつに数えられている。


トッカリショ展望台からの夜景も絶景と評判になっている。断崖絶壁が月明かりに照らされ、遠くに見える市街地の明かりなど、幻想的な雰囲気に包まれる。秋から冬にかけてはイカ釣り漁船の漁り火が夜景に加わる。


トッカリショ展望台

住所 北海道室蘭市母恋南町3丁目
問い合わせ先 0143-23-0102(室蘭観光協会)
時間 見学自由
交通アクセス JR母恋駅から徒歩約35分
URL http://muro-kanko.com/see/tokkarisyo.html

母恋駅から室蘭駅へ

16時近くなってきた。日没の早い北海道では、そろそろ夕日が差し始める時刻だ。母恋駅を発車し、仏坂トンネルを抜けて入江運動公園を右側に見ながら進むと室蘭駅に到着。乗車時間はわずか2分。

室蘭駅周辺で宿泊

室蘭市の中心部に位置する室蘭駅。駅周辺には室蘭市の行政機関や文化施設が集中しており、駅から約8分の場所には道内の駅舎では最古のものである、1912(明治45)年築の旧駅舎も。現在は観光案内所として利用されている。旧駅舎を含めた周辺の文化財は、日本遺産「本邦国策を北海道に観よ!~北の産業革命「炭鉄港」~」の構成文化財になっている。
室蘭駅周辺にはリーズナブルなビジネスホテルが点在しているので、室蘭市の夜景を楽しむのにもおすすめだ。東日本最大級の吊り橋・白鳥大橋や工場群、室蘭港など、光り輝く夜景から、雄大な自然の中にある鉄の街の営みに思いを馳せてみては。
夕食にはご当地グルメの室蘭やきとりを。豚肉と玉ネギを串焼きにし洋辛子をつけて食べるのが特徴だ。

室蘭駅から登別駅へ

2日目は、室蘭駅を朝8時ごろに出発してスタート。東室蘭駅で乗り換えることなく室蘭本線を進む。東室蘭駅からは長万部からの線路も合流し、特急や貨物列車なども見られるようになる。国道36号と太平洋を並行するように走行し、やや東に走行すると富浦駅、そして次の目的地である登別駅に到着。

途中下車駅 登別駅

登別温泉や周辺観光の拠点にも便利

登別市の中心駅である登別駅は、登別温泉側に出口が設置され、構内にはみどりの窓口がある。駅前や国道36号沿いにバス停があり、登別温泉をはじめ、カルルス温泉や倶多楽湖(くったらこ)など、各地の観光地へと運行している。みどりの窓口では、登別温泉までのバス往復割引乗車券を販売。7時から入浴できる温泉銭湯や宿泊施設があるので、のぼりべつクマ牧場へ行く前にひとっ風呂というのもいいだろう。

のぼりべつクマ牧場

迫力と愛嬌をあわせ持つヒグマを観察


倶多楽湖を見下ろす四方峰の頂にあり、約70頭のヒグマが放し飼いされている。第1牧場にはオスのヒグマがいる。東アジア最大の陸上動物ならではの大迫力を体感できる。また、ヒグマを一番近くで観察できる「人のオリ」が設置されていて、顔や毛並みなどをじっくり観察できる。クマたちに取り囲まれて、気分はさながら獲物のよう……?


第2牧場はメスのヒグマ。2本足で立ったり、愛嬌たっぷりにおやつをおねだりしたりととってもかわいらしい。鉄製の木を登る器用さもうかがい知れる。


子グマが誕生した時のみ開場する子グマ牧場。まるでぬいぐるみのようなその愛らしい姿が、食べたり、寝転んだり、眠ったりするところをほのぼのと観察できる。そのほか、丸太渡りや餌探しなどのステージショーが見られるクマ山ステージ、世界でも珍しいヒグマ専門の博物館、飼育員によるヒグマの生態レクチャーなども好評。


ヒグマ博物館の屋上には、日本屈指の透明度を誇る倶多楽湖を一望できる展望台がある。周囲8キロメートル、深さ145メートルの神秘の湖は美しく、太平洋やオロフレ峠、さらには渡島半島や下北半島なども望める。


のぼりべつクマ牧場

住所 北海道登別市登別温泉町224
問い合わせ先 0143-84-2225
時間 8:30~16:30(7・8月は~17:00。最終入園は40分前)
定休日 不定休(施設保守、悪天候などによるロープウェイ運休時は休園)
交通アクセス JR登別駅から道南バス登別温泉行きで約15分、登別温泉バスターミナル下車徒歩約5分、登別温泉ロープウェイ約7分、山頂駅下車すぐ
値段 大人2650円、小人1350円(ロープウェイ運賃込)
URL https://bearpark.jp/

登別駅から苫小牧駅へ

正午に差し掛かろうというところ。登別駅からはまた、太平洋と国道36号に沿って北東に進んでいく。白老駅から沼ノ端駅区間は27.8キロメートルと日本一長い直線区間になっていることでも有名だ。白老駅周辺から社台駅周辺は競走馬を中心に牧場が点在している。社台駅を過ぎれば活火山の樽前山を望みながら列車は苫小牧駅に到着。

途中下車駅 苫小牧駅

特急を含めてすべての列車が停車するターミナル駅

苫小牧駅は特急を含めてすべての列車が停車するターミナル駅だ。日高本線の起点であり、千歳線の列車もこの駅まで乗り入れているため、室蘭本線と合わせて3路線が接続する。JR北海道のICカード「Kitaca」エリアの南端で、構内にはみどりの窓口やコインロッカー、コンビニがある。駅周辺には、スーパーマーケットや各種金融機関、ホテルなどが点在している。日本屈指の渡り鳥の中継地としても知られるウトナイ湖を散策しよう。

ウトナイ湖

世界的に知られる渡り鳥の渡来地で豊かな自然を満喫する


周囲9キロメートル、面積275万平方メートルの淡水湖で、平均水深は60センチメートルと浅い。美々川やトキサタマップ川などの清流が注がれ、湖周辺に広がる湿原や原野は動植物の宝庫といえる。四季折々の風景とともに自然を五感で楽しめる、北海道屈指の名スポットだ。


ウトナイ湖は今までに270種以上の野鳥が確認されており、マガンや白鳥の集団渡来地として世界的に知られている。野鳥の楽園ともいわれるゆえんだ。ウトナイ湖サンクチュアリ内のネイチャーセンターでは、展示や図書の閲覧だけでなく、望遠鏡での野鳥観察が可能。


1981(昭和56)年に日本野鳥の会サンクチュアリが設置され、1982(昭和57)年に国指定鳥獣保護区、1991(平成3)年には、日本で4番目のラムサール条約に登録されている。


ウトナイ湖

住所 北海道苫小牧市植苗
問い合わせ先 0144-34-7050(苫小牧観光協会)
時間 散策自由
交通アクセス JR苫小牧駅から道南バス新千歳空港行き約25分、ネイチャーセンター入口下車すぐ
URL http://www.city.tomakomai.hokkaido.jp/shizen/shizenhogo/utonaiko/utonaikoshokai.html

終点の岩見沢駅へ

野鳥の楽園を堪能しきったら、今日も日が傾いてきた。ゴールの岩見沢駅へ向かう。苫小牧駅から先はカーブや勾配が少なく、夕張山地や馬追丘陵に挟まれているため開放的な眺望は望めないが、追分駅を過ぎるとすっと景色が開ける。左側に牧場、右側に水田地帯を眺めながら進んでいけば、いよいよこの旅の終着地・岩見沢駅へと到着。
一つのスポットに1時間もいられないけれど、なんとか1泊2日で、支線を含めた室蘭本線を制覇した!

旅のまとめ

室蘭本線は走行距離が支線と合わせて220キロメートル近くもある長い路線だが、週末などの休みを使ってあえて1泊2日で巡ってみるのも悪くない。1日目は展望台から洞爺湖や有珠山、太平洋や起伏に富んだ断崖の絶景を眺めつつ、ボルタ工房で手にしたお土産と室蘭の夜景に人の営みを見る。2日目は、のぼりべつクマ牧場でヒグマを、ウトナイ湖で野鳥を観察しよう。短期間の間に次々と目に入ってくる大自然と人間社会の両方に揺さぶられる体験は、きっと強烈に心に刻まれるはずだ。

宿泊情報


北海道(道央)の宿泊情報

  • 文:速志 淳(株式会社アド・グリーン)
  • 写真協力:長万部観光協会、サイロ展望台、NPO法人テツプロ、室蘭観光協会、登別温泉ケーブル株式会社、苫小牧観光協会
  • 掲載されているデータは2021年1月現在のものです。変更となる場合がありますので、お出かけの際には事前にご確認ください。
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