四国の四季を堪能。観光列車〔志国土佐 時代(トキ)の夜明けのものがたり〕も走る土讃線(JR四国)
日本全国津々浦々をつなぐ鉄道路線。
そんな日本の鉄道路線は、150年以上の歴史を持ちます。
日常の一部でもある鉄道路線は地域と密接に関わり、さまざまな歴史とともに走ってきました。
通勤・通学で使用するなじみのある路線にも、思いがけない歴史があるかもしれません。
旅の目的地へ連れて行ってくれる路線には、見逃せない車窓が待っています。
さあ、鉄道路線の歴史の風を感じてみませんか?
今回は、山に海にさまざまな表情を見せてくれる絶景路線・土讃線(JR四国)をご紹介します。
土讃線の歴史
全通までに60年あまりを要した山岳路線
香川県の多度津駅と、高知県の窪川駅を結ぶ全長198.7kmの土讃線は、バラエティに富んだ路線です。
のどかな讃岐平野から険しい讃岐山脈越え、吉野川の渓流に沿った大歩危・小歩危の峡谷、高知平野から須崎湾といった具合に、次から次へと車窓が変わり、飽きることがありません。
土讃線は、全通まで長く複雑な歴史をたどりました。
最初に開業した多度津〜琴平間は、1889(明治22)年に讃岐鉄道の一部として開業した区間です。讃岐鉄道は山陽鉄道に買収されたあと1906(明治42)年に国有化され、讃岐線、のちに讃予線と呼ばれます。
1914(大正3)年、徳島から伸びてきた徳島本線が阿波池田駅に到達。大正時代は高知県の鉄道建設が進み、1925(大正14)年までに土佐山田〜高知〜須崎間が開業します。
昭和に入って1929(昭和4)年、讃岐山脈越えの難工事の末、多度津〜阿波池田間が全通。
大歩危・小歩危の難所を克服して、多度津駅から高知駅を経て須崎まで鉄道が通じたのは、1935(昭和10)年のことでした。
「土讃線」の路線名が与えられたのもこの時です。そして窪川駅まで全通したのは戦後の1951(昭和26)年。多度津〜琴平間の開業から、実に62年かけての全通でした。
土讃線の車両
国鉄時代からの車両も大切に使い続ける
多度津〜琴平間は直流電化されており、予讃線高松駅から6000系、7000系、7200系といった電車が乗り入れています。
6000系は1995(平成7)年にデビューしたJR世代の車両ですが、設計コスト削減のため先頭部は国鉄時代のデザインを採用しているのがユニーク。
7200系は、国鉄時代末期に登場した121系を全面的にリニューアルした車両で、6000系と7200系のどちらも最新の技術とサービスを採用しつつもコストを抑えるJR四国の姿勢が伝わります。また、普段は高松止まりの寝台特急〔サンライズ瀬戸〕も多客期には琴平まで臨時延長運転を行なっています。
多度津〜窪川間は非電化で、気動車による運転が行なわれています。
特急列車は、岡山〜高知間の〔南風〕と高松〜高知間の〔しまんと〕、そして高知から土佐くろしお鉄道の中村・宿毛まで〔あしずり〕の3系統。
原則として2019年登場の2700系が使用されています。この車両は、2017年登場の2600系をベースに、曲線区間を高速で走行するための車体傾斜機構を空気バネ式から振子式に変更したものです。
当初は2600系が量産される予定でしたが、曲線が極端に多い土讃線では車体傾斜機構に供給する空気が不足する恐れが生じたことから、先代の2000系と同じ振子機構を搭載した2700系が投入されました。
また、一部の〔南風〕に車体の内外にアンパンマンがデザインされた「土讃線アンパンマン列車」で運行されています。「あかいアンパンマン列車」と「きいろいアンパンマン列車」があり、運行予定はJR四国のウェブサイトで公開されています。
なお、〔あしずり〕の一部には、1989年登場の2000系が使用されています。
土讃線を走り抜ける赤と黄色のアンパンマン列車
普通列車の主力は、1000・1200形気動車。
1990年に登場した車両で、片側を4人掛けクロスシート、反対側をロングシートとし、中央の乗降扉を境に左右反対に配置するというユニークな座席配置となっています。
また高知〜伊野間では、JR四国の経営を安定させるため国鉄末期に投入されたキハ32形が活躍を続けています。
土讃線の見どころ
秘境駅や急流の峡谷など見どころ豊富な多度津〜高知間
多度津駅から、土讃線の旅に出発しましょう。
琴平駅までは讃岐平野の西端を走り、車窓右手には我拝師山や象頭山(琴平山)といった山々が連なります。
金刀比羅宮の玄関である琴平駅には、1922(大正11)年竣工の木造駅舎が現役で、国の登録有形文化財でもあります。2017年のリニューアルでは、開業当時の姿が可能なかぎり復元されました。
讃岐財田駅を過ぎると讃岐山脈越えが始まります。
25‰(1000m水平に進んで25mの高低差)の勾配が続き、4187mの新猪ノ鼻トンネル内で徳島県へ。
次の坪尻駅は、スイッチバックの秘境駅として知られます。スイッチバック駅とは、昔の列車では停車困難だった急勾配区間にあるため、本線から平坦な線路を分岐させて、その先にホームを設置した駅。深い谷底に位置し、細い山道以外に道路はなく、列車か徒歩でしか到達できません。
坪尻駅からも急勾配を下り続け、やがて吉野川の左岸に出ます。
ここから川沿いの斜面を東に進みながら高度を下げ、川の高さまで降りたところで吉野川を渡ると徳島線と合流して佃駅。
今度は吉野川右岸を西に進み、阿波池田駅に到着します。地形を最大限活用して険しい標高差を越える、昔の人々の努力が伝わる区間です。
阿波池田~土佐穴内までの約40kmは、吉野川に沿って進みます。このあたりの吉野川は、険しい急流となって狭い峡谷を縫うように流れ、土讃線は崖と川の間のわずかなスペースを、多数のトンネルを駆使して蛇行しながら走ります。
ハイライトは小歩危〜大歩危間。険しい山が急流に迫り、短いトンネルやロックシェッドの合間から素晴らしい渓谷美を楽しめます。座席は、窪川に向かって右側がよいでしょう。このあたりは細かいカーブも極めて多く、振子式車両を使用する特急列車は右に左に車体が大きく傾きます。
多度津〜大歩危間には、週末を中心に観光特急〔四国まんなか千年ものがたり〕も運行されています。古民家をモチーフとする木に包まれた車内空間で、大歩危峡の絶景をゆっくり楽しむことができます。
落ち着いた車内で四国の四季を楽しむ観光列車
吉野川の支流である穴内川に沿って再び山越えにかかります。
土佐北川駅は、第三穴内川橋梁の上にある珍しい駅。2つ先の繁藤駅は標高347.4mで、JR四国でもっとも標高の高い駅です。
繁藤駅からは25‰の下りとなり、新改駅は坪尻駅と同じスイッチバック構造の駅。トンネルが連続する下り坂を走り、高知平野の東端に位置する土佐山田駅に着きます。
ここの標高は43.4m。繁藤から13.7kmで、標高差約300mを一気に駆け下りるのです。
高知平野に入ると次第に住宅地やビルが増え、都市近郊の趣となります。
土佐くろしお鉄道ごめん・なはり線の分岐駅である後免駅を過ぎ、薊野駅からは高架線となって高知駅に到着。
駅舎の正面からは、とさでん交通の路面電車が発着しています。
いくつもの山を越えてたどり着く海岸の絶景駅
高知〜伊野間は、高知近郊の通勤区間です。
枝川〜伊野間では線路横の土佐街道をとさでん交通が並走し、運がよければ路面電車を見られるかもしれません。手漉き和紙など紙の町として知られる伊野駅を発車すると、仁淀川を渡って市街地を離れます。
日下〜須崎間は、高知県で最初に開業した区間。斗賀野から峠を越えた先にある須崎港は天然の良港で、鉄道建設に必要な資材や機関車もこの港から陸揚げされました。駅前には、「高知県国鉄発祥の地」モニュメントが飾られています。
土佐新荘〜安和間では、リアス式海岸の断崖を貫くトンネルの合間から須崎湾がちらりちらりと見えます。
安和駅は土讃線唯一の海岸にある駅で、目の前に安和海岸の絶景が広がります。大歩危峡から100kmあまり。とうとう海岸に出た土讃線ですが、安和駅からは再び山地に向かい、土佐久礼〜影野間のハイライトを迎えます。
ここは一駅区間10.7kmに244mもの標高差があり、25‰の急勾配がひたすら続くなか23カ所ものトンネルを通過するという、土讃線最大の難所です。
この難所があるために、土讃線の全通は戦後まで待たなくてはなりませんでした。
影野駅からは高南台地と呼ばれる谷あいの穀倉地帯に出ます。先ほどまでの難所がうそのようにのどかな里山を走り、仁井田米が有名な仁井田駅を過ぎると、終着・窪川駅に到着です。
窪川は四万十川のほとりにある農業の町で、四万十川沿いにトロッコ列車も走る予土線や、海の風景が美しい宿毛へ至る土佐くろしお鉄道も発着します。
高知〜窪川間には、週末を中心に観光特急〔志国土佐 時代(トキ)の夜明けのものがたり〕が運行されています。「文明開化ロマンティシズム」をテーマとした高級感あふれる車内で、仁淀川や安和海岸など高知の絶景を楽しむことができます。
土佐を満喫! 非日常を味わえるJR四国の「ものがたり」列車
急峻な地形を克服し、半世紀以上をかけて香川と高知を結んだ土讃線。スイッチバックや振子式車両など、明治以来培われてきた日本の鉄道技術を、絶景車窓とともに味わうことができるでしょう。
土讃線(JR四国) データ
起点 : 多度津駅
終点 : 窪川駅
駅数 : 61駅
路線距離 : 198.7km
開業 : 1889(明治22)年5月23日(讃岐鉄道として開業)
全通 : 1951(昭和26)年11月12日
使用車両 : 6000系、7000系、7200系、285系、2000系、2700系、1000形、1200形、1500形、キハ185系、キハ32形、キクハ32形
著者紹介
- ※写真/栗原景、交通新聞クリエイト
- ※掲載されているデータは2023年12月現在のものです。変更となる場合がありますので、お出かけの際には事前にご確認ください。