列車旅なら飲まなきゃ損! 日本全国酒蔵めぐり 熊本編

電車にゆらゆら揺られて出かける旅なら、のんびりとお酒を飲むことができます。目的地までの新幹線車内でちょっと一杯――というのも大人の休日ならではの過ごし方。近年“大人の社会科見学”として人気を集めているのが、日本酒の酒蔵めぐりです。今回訪れるのは熊本県。その土地の風土を知って味わうと、あら不思議。今までより美味しさが増すから、お酒って面白いものです。

この記事の目次

日本酒の歴史に欠かすことのできない「火と水の国・熊本」

阿蘇カルデラで有名な熊本県。日本では珍しくミネラルが豊富な天然水で、所により水質が違うので、蔵元それぞれの個性が発揮された酒が醸されているのも熊本の特徴です。豊かな水資源は、米文化を生み、豊かな食文化と酒文化を育みました。北部の清酒、南部の球磨(くま)焼酎という米文化に由来する2つの酒文化が存在します。

そして日本酒の歴史を語るうえで欠かせない「熊本酵母」は、醸造家から根強い支持を集める「きょうかい9号酵母」のもとで、熊本県の酒蔵が出資し合って創った「熊本県酒造研究所」に招かれた酒の神様・野白金一氏による功績です。野白氏の教えによって、清酒後進県だった熊本が、昭和5年(1930)の全国新酒鑑評会で、出品約4000点の中から上位を独占し、一躍清酒の名産地へと生まれ変わります。現在でも「株式会社熊本県酒造研究所」によって「熊本酵母」は守り続けられています。

~再興した山奥の小さな酒蔵。日本酒の新たなる世界観を発信~
花の香酒造

新大牟田駅から車で15分ほどの、山の中に位置する小さな酒蔵です。周りを平山温泉、三加和温泉、山鹿温泉…といくつもの温泉に囲まれた自然豊かな場所。目の前の菊池川は阿蘇と有明海を結ぶ、山と海のミネラルを含んだ恵みの水源で、「流域には、二千年にわたる米作りによる大地の記憶が残っている」として日本遺産に認定されています。いにしえをしのぶ豊かな土地で造られる、華やかな香りと甘みを特徴に持つのが「花の香」です。

●主な銘柄:花の香、花火、ハナノカ、神田
●創業:1902年

創業以来日本酒を製造してきた花の香酒造は、やがて焼酎を造りはじめ、二本柱でやってきました。しかし焼酎ブームが収束し、6代目神田清隆さんが蔵に戻るころには経営が危機的状況に。打開するべく2014年に神田さんと蔵人で「獺祭」に行き、酒造りの極意を学びます。蔵に戻るも最初は「獺祭」のような最新設備はなく、手作りの道具で代用するなど涙ぐましい努力の甲斐あって、徐々に設備投資をし、体制を見直し、酒質が安定し多くのファンを獲得しました。心挫けずまい進できたのは、“「花の香」を通して飲み手の人たちの心が豊かになって欲しい”と願う、神田さんが描く明確な世界観。酒蔵を訪れて感じることができます。

売店に併設して2019年2月にオープンした「テイスティングバー花香酔人」は、とてもスタイリッシュ。スタンディングで、3杯1000円で試すことができます。人気のスパークリング「花火」も選択可能。庭の景色に目を潤しながら楽しむ「花の香」は、格別です。頭上に掲げられている書は、熊本初の内閣総理大臣・清浦奎吾(きようらけいご)氏のもの。

そして花の香ギャラリー「花回廊」は、かつて酒造に使われていた設備や道具の展示、写真家 ハービー・山口さんによって撮影された酒蔵の写真、和水(なごみ)町の風景写真が飾られています。通路をたどって一番奥にあるのぞき窓を覗くと、通常見ることのできない麹室の様子を見ることができます。

2階の「かすじるや」は2019年9月中旬頃にオープン予定。おいしい粕汁を楽しめるだけでなく、眼下に自然を見下ろしながら、靴を脱いでゆっくりとくつろぐことができます。農業にも力をれ、今冬から全量地元・和水町産山田錦を使っての酒づくりを始めるという花の香酒造。夏にはホタルが飛ぶ清流・菊池川の向こう側には、花の香酒造が手がける山田錦の田んぼがあります。「いつか川に橋をかけて、山田錦の田んぼのなかでお料理が食べられるレストランができたらいいな」と、まるで海外にあるオーベルジュを思わせる夢の構想も聞かせてくれました。

(右から)「純米大吟醸 花の香 梅花」花の香の銘柄の由来は、梅の花。蔵の象徴ともいえる、最高峰のお酒。「純米大吟醸 花の香 和水」は全量和水産山田錦を使用した生原酒。「純米大吟醸 花の香 桜花」は華やかだけどキレのある純米吟醸。「Kura Master」審査員特別賞受賞をはじめとしたさまざまな賞を受賞しています。「純米酒 清酒 神田(じんでん)」は熊本県発祥の「きょうかい9号酵母」を使用した熊本限定酒(花の香オンラインショップでは購入可能)。すべて売店で購入可能で、ほかにもシャンパンと同じ製法で造られたスパークリング日本酒「瓶内二次発酵 花火」があります。

花の香酒造株式会社

住所
熊本県玉名郡和水町西吉地2226-2
「花回廊」電話番号(飲食店ご予約時)
0968-34-3333
事務所 電話番号
0968-34-2055
酒蔵見学
要事前予約
かすじるや
完全予約制
営業時間(売店・テイスティングバー)
10:00~17:00
URL
http://www.hananoka.co.jp/

~馬刺しにブランド地鶏…熊本の味覚を味わうなら~
料理天國

熊本のグルメを、リーズナブルな価格で楽しむなら「料理天國」。店内はカウンターと座敷席がある、アットホームな居酒屋スタイル。馬刺しは「霜降り」「赤身」「たてがみ」「レバー」の部位ごとに少しずつ楽しむことができます。他にも、一文字ぐるぐる、からし蓮根、地鶏「天草大王」、ブランド豚「ひごさかえ肥皇」、くじら刺身などが食べられます。

▲「しゃく」(正式名称「穴しゃこ」)は熊本の夏の風物詩。一般的な「しゃこ」より殻が硬くなくて、柔らかな食感。海を感じる味わいは、日本酒の肴にぴったり!

料理天國

住所
熊本県熊本市中央区花畑町12-15 雅装堂ビル 1F
電話番号
096-356-9311
営業時間
ランチ 11:00~15:00 ディナー 17:00~24:00(L.O.23:10)
定休日
12月31日~1月1日、ランチ/毎週日曜・祝日
予算
3000~4000円

~震災に屈せず熊本をけん引し続ける市内の酒蔵~
瑞鷹(東肥 大正蔵)

熊本駅からたった2駅、熊本市内の住宅街に位置する創業慶応3年(1867)の酒蔵です。肥後藩でお酒といえば「赤酒」のみ――というなかでいち早くに清酒製造をはじめ、品質と技術の向上に注力してきたのが「瑞鷹」です。1908(明治41)年「熊本県酒造研究所」が発足した際に、熊本の未来を想い、自らの酒蔵の一部を提供したのが「瑞鷹」でした。「瑞鷹」がなければ現在の熊本における日本酒の地位はなく、「きょうかい9号酵母」も生まれることはなかったでしょう。
現在は「瑞鷹東肥蔵」で赤酒と焼酎を製造し、本蔵で清酒を醸しています。予約なしにフラリと出掛けても、「東肥大正蔵」でテイスティングとお酒の購入、そして古い酒関連道具やグッズを見ることができます。

●主な銘柄:瑞鷹、崇薫(純米吟醸)、菜々(純米)、本伝 東肥赤酒、東肥赤酒(料理用)
●創業:1867年

酒の神様・野白氏の指導を受けながら、昭和5年(1930)に行われた第12回全国酒類品評会において約3900点中第1位を受賞。さらに3回連続優等賞受賞の実績により「瑞鷹」には名誉大賞が授けられました。時が移り現在に至るまでにも、「全国新酒鑑評会」金賞、「インターナショナルワインチャレンジ2018(IWC)」SILVER MEDAL、「Kura Master」金賞、「ワイングラスでおいしい日本酒アワード2016」金賞など、数えきれないほど多くの賞を獲得している実力派の酒蔵です。

熊本の食文化と寄り添ってきた「赤酒」を現在でも「瑞鷹」では製造しています。今でも熊本ではお屠蘇酒(とそしゅ)として飲みますが、製造量のほとんどが「料理酒」として使用されています。いわゆる「灰持酒(あくもちざけ)」というもので、文字通りもろみに「木灰」を入れてから搾ります。テクスチャーはみりんとやや似ていますが、みりんは酸性、「東肥赤酒」は微アルカリ性を帯びるので、素材の身を締めることなくふっくらとした仕上がりに。糖とアミノ酸がメイラード反応を起こし真っ赤に見えるほどの旨味成分を有しており、全国の有名料亭の板前さんたちから愛されています。炭酸で割って飲んでもとても美味しい!

熊本といって忘れられないのは、「平成28年熊本地震」。気象庁震度階級で最も大きい震度7の地震が4月14日夜と4月16日未明の2度観測されたほか、震度6程度の地震が幾度も発生し、多大な被害に見舞われました。震源地から近かった「瑞鷹」もまた大きな被害を受けた蔵のひとつで、地震から丸3年が経過した現在でもまだその傷跡が見られ、修復中。「酒造りに大切なところから壊れていき、大きく被災しましたが、幸いにも地下120mから引いている地下水は変わらず湧いているので感謝しながら酒造りを続けたいと思います」と常務取締役・吉村謙太郎さんは語ります。

(右から)「本伝 東肥赤酒」。自然農法で育てられた熊本県産「吟のさと」を使用し、地元にこだわった「純米吟醸酒 崇薫(すうくん)」。「芳醇純米酒 瑞鷹」は「全国燗酒コンテスト2018」“お値打ち燗酒 熱燗部門”で最高金賞を受賞したお酒。そしてここでしか買えない「瑞鷹 純米吟醸 銅(あかがね)」の無濾過原酒は、華やかな香りとマイルドな落ち着いた旨味が特徴。保冷に気をつけながらでも持ち帰りたい一本です。

瑞鷹株式会社<東肥 大正蔵>

住所
熊本市南区川尻一丁目3番72号
電話番号
096-357-7251
営業時間
10:00~17:00
URL
https://www.zuiyo.co.jp/

~足を延ばして噂の「あか牛丼」を食する~
お食事処・いまきん食堂

今話題の「あか牛丼」が有名なこのお店。タレがかかっていて、肉みそも添えられているので、最後まで飽きることなく美味しく食べられます。(「あか牛丼」にはお新香と牛スープが付きます。)週末は行列必至ですが、並んでも味わいたい逸品です。

お食事処・いまきん食堂

住所
熊本県阿蘇市内牧290
電話番号
0967-32-0031
営業時間
11:00~15:00(受付終了)
予算
1000~2000円
URL
http://www.aso.ne.jp/imakin/

まだ一部観光地には地震の影響も残りますが、復旧し日常を取り戻しています。水の美味しい場所は、食べ物も美味しい! 次のお休みには、ぜひ熊本旅行を計画してみてくださいね!

この列車で行こう!

東海道・山陽・九州新幹線N700系・800系

JR九州初の新幹線車両、九州新幹線用の800系「つばめ」。700系開発時に日立製作所で設計された車両デザイン案をベースとしたシャープなスタイルとなっています。また、日本の「和」をコンセプトにした車内デザインが採用され、九州エリアの地場産業の特産品がブラインドや洗面所の縄のれん、電話室ののれんなどに生かされているのが最大の特徴。

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特急いさぶろう・しんぺい
運行区間:鹿児島本線・肥薩線 熊本駅・人吉駅?吉松駅間

大畑(おこば)駅や真幸(まさき)駅のスイッチバック、大畑駅?矢岳駅間のループ線、そして「日本三大車窓」のひとつに数えられる霧島連山の絶景を楽しめる。

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著者

関友美

きき酒師/日本酒ライター/コラムニスト/蔵人/フリーランス女将
「とっておきの1本をみつける感動を多くの人に」という想いのもと記事を執筆、セミナーでの講演や酒蔵での酒造りなど、日本酒のあるさまざまな場所に出没しながら、あらゆる手段で日本酒の美味しさと日本文化の豊かさを伝えている。

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