福島の伝統や歴史に触れ、自然が造りあげた美を楽しむ旅
磐越東線は福島県中央部の郡山駅から東部のいわき駅まで85.6キロメートルを16駅で結ぶ路線。一帯の阿武隈(あぶくま)山地をゆっくり運行し、「ゆうゆうあぶくまライン」の愛称がある。沿線の最大の見どころは幻想的な鍾乳洞のあぶくま洞。近くにも洞窟アドベンチャーが楽しめる入水鍾乳洞がある。終点のいわき駅周辺には国宝に指定されている歴史ある名所の白水阿弥陀堂もあるので、こちらもぜひ訪れたい。観光スポットは点在しているので、1泊2日のプランで観光しよう!
※記事作成時の情報ですので、おでかけの際は最新情報をお確かめください
東北新幹線の乗り入れ駅でもある郡山駅から磐越東線の旅はスタート
磐越東線の始発駅となる郡山駅
郡山駅は東北新幹線や在来線各線が乗り入れ、東西南北へと向かうターミナル駅。駅舎内の北側にはショッピング施設、南側にはスーパーマーケットをはじめ、フードコートや弁当店、みやげ処などの各種店舗が点在。2階中央口近くには郡山市観光案内所があるので、観光の拠点にもなるだろう。なお磐越東線の一部の駅ではICカードが使えないので注意が必要だ。
途中下車駅その1 三春駅に到着
伝統民芸品を求めてデコ屋敷へ
三春駅は三春滝桜が満開の春には多くの観光客でにぎわう。駅併設の「ばんとうプラザ」では、地元の産直野菜やおみやげが買え、軽食が食べられる。駅から車で6分ほどの三春伝統の民芸品の購入や体験ができる高柴デコ屋敷(写真)へと向かおう。
高柴デコ屋敷
三春駒や三春張り子人形の発祥の地にある集落
「デコ」とは人形のことで、全国的にも知られる伝統工芸品・郷土玩具の里。藩政時代から約300年の伝統を守り、現在は集落の4軒で製作・販売をしている。
三春張り子人形は木型に和紙を貼り付けて、ダルマや干支といった縁起物、お面や雛人形などを作る。各家が所有する木型は県の重要文化財に指定されている。
三春駒は青森県の八幡馬、宮城県の木下駒と並んで日本三大駒に数えられている。すべて直線で作られていて、美しく上品な模様が施されている。黒駒は子宝や安産、子育てのお守りとして、白駒は長寿のお守りとして作られている。
彦治民芸(写真)では、唯一戦後以降、木彫りから製造し続けていて、工房の見学ができる。
各店舗では、絵付け体験(要予約)を行うことができるので、時間に余裕があれば体験してみよう。豆ダルマ880円や三春駒1650円など、旅の思い出にきれいに彩色をしよう。また、ガイドの説明を聞きながらのデコ散歩コースも予約制で開催(15人まで5500円)。デコ屋敷の歴史や民芸品の作り方などを詳しく知ることができる。
高柴デコ屋敷
住所 | 福島県郡山市西田町高柴舘野169 |
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問い合わせ先 | 024-971-3907(高柴デコ屋敷観光協会、おいち茶屋内) |
時間 | 9:00~17:00(各店舗により異なる) |
定休日 | 各店舗により異なる |
交通アクセス | JR三春駅から車約6分 |
URL | https://www.gurutto-koriyama.com/detail/index_203.html |
三春駅から再乗車し、神俣(かんまた)駅へ
高柴デコ屋敷で郷土玩具や伝統工芸品を堪能したらタクシーで三春駅まで戻ろう。磐越東線に乗って次の目的地であるあぶくま洞へ。最寄り駅の神俣駅までは、6駅、約30分だ。三春駅を出発し、トンネルを抜けると要田(かなめた)駅へ(写真)。さらに進むと車窓からは桑畑やタバコ畑などが広がり、田村富士とも呼ばれる片曽根山の姿も望める。
途中駅その2 神俣駅に到着
神俣駅からあぶくま洞へ
1915(大正4)年開業の駅で、白い壁に青い屋根のレトロ風な造り。駅舎には滝根コミュニティセンターが併設されている。駅からタクシーなどであぶくま洞(写真)へ向かおう。
あぶくま洞
地下水が造りあげた大自然の造形美
約8000万年という悠久の時をかけて自然が造りあげた鍾乳洞で、洞内は全長約600メートルにも及ぶ。1969(昭和44)年に石灰岩の採掘中に偶然発見されたという。鍾乳石には名前が付けられていて、妖怪の塔やクリスタルカーテン(写真)など、種類と数の多さは東洋一ともいわれている。さまざまな光の演出が施され、まるで芸術作品のようだ。2016年には恋人の聖地として認定されている。
一般コースの洗心の池近くから「探検コース」に入ることができる。狭いところをかがんで進んだり、丸太のハシゴや飛び石を渡ったりできるとあって、よりアドベンチャー気分を堪能できる。滝根御殿(写真)は高さ約29メートルもあるあぶくま洞最大のホールで、いろいろな鍾乳石が観察できるスポットだ。
あぶくま洞の最後の見どころ、月の世界では、あぶくま洞にある主な鍾乳石がすべて見られる。日本の鍾乳洞で初めて導入された舞台演出用の調光システムにより、照明の色が暗闇から朝日がのぼり、夕日になって沈むまでを演出。ラストシーンを幻想的に盛り上げてくれる。
あぶくま洞
住所 | 福島県田村市滝根町菅谷東釜山1 |
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問い合わせ先 | 0247-78-2125 |
時間 | 8時30分~17時(季節により異なる)※探検コースは営業終了1時間30分前までの受付 |
定休日 | 無休 |
交通アクセス | JR神俣駅から車約5分 |
値段 | 1000円(探検コースは別途200円) |
URL | https://abukumado.com/abukuma_top |
入水鍾乳洞
洞窟アドベンチャーを楽しめる国の天然記念物
あぶくま洞から入水鍾乳洞までは、車で10分ほどの場所にあり距離があるので、タクシーを手配し向かおう。入水鍾乳洞は国の天然記念物に指定されている鍾乳洞。本格的なケイビング(洞窟探検)ができると人気になっている。
全長約900メートルの狭い洞内は最奥部までAコース、Bコース、Cコースに分かれている。Aコースは初心者向けのコースで、約150メートルを30分かけて探険する。ここまでは照明があるので、比較的手軽にケイビングが楽しめる。
より探検気分を味わいたい人は中級者向けのBコースがおすすめ。Aコースの先にあるBコースは全長約450メートル。照明がなく懐中電灯やロウソクを灯しながら進む。ほとんど手が加えられていないため、約10度の冷たい水に膝まで浸かったり、四つん這いになりながら進む。券売所では、ロウソクの販売やカッパ・ゴム草履などのレンタルもできる。
Bコースの途中にある胎内くぐりや第2胎内くぐりは入水鍾乳洞の醍醐味ともいえるスポット。水が流れるわずかな隙間をほふく前進でくぐるように進んでいく。さらに先のCコースは案内人が必要な上級者コースで、ヘルメットやヘッドライト、ヒザパッドなどを無料で借りることができ、本格的なケイビングが体験できる。BコースかCコースを選択する際は、体力と時間などを十分考慮しよう。
入水鍾乳洞
住所 | 福島県田村市滝根町菅谷大六89-3 |
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問い合わせ先 | 0247-78-3393 |
時間 | 8時30分~17時(10月下旬~3月上旬は~16時30分) |
定休日 | 無休 |
交通アクセス | JR菅谷駅から車約5分 |
値段 | Aコース600円、Bコース800円、Cコース6000円(1回あたり5人まで)要予約 |
URL | https://www.irimizu.com/ |
菅谷駅から再乗車し、夏井駅方面へ
菅谷駅を出発し、夏井駅からは勾配を登っていく。いくつかトンネルを抜けていくと、沿線最大の車窓風景の見どころといえる夏井川渓谷に。夏井川を眺めながら進めば、終点のいわき駅だ。
時間と体力に余裕があれば夏井諏訪神社へ
仲睦まじい夫婦のように寄り添う2本の大杉
夏井諏訪神社の境内には樹齢1200年という2本の大きな杉が寄り添うようにそびえ立っている。
社殿に向かって右側が翁(じじ)杉、左側が媼(ばば)杉と呼ばれる国の天然記念物だ。神社の縁起によると、奈良時代に右大臣・藤原継縄(つぐただ)が勿来(なこそ)の関から持参した白砂をまいて2本の杉を植えて諏訪神社を建てたと伝わる。夫婦がともに長命になれるというご利益があるともいわれている。
夏井諏訪神社
住所 | 福島県田村郡小野町夏井町屋33 |
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時間 | 境内自由 |
定休日 | 無休 |
交通アクセス | JR夏井駅から徒歩5分 |
URL | http://www.town.ono.fukushima.jp/soshiki/7/meotosugi.html |
磐越東線の終点、いわき駅周辺で飲食を楽しみ、宿泊を。
磐越東線の終点のいわき駅は常盤線の乗り入れ駅でもある。駅構内にはいわき市総合観光案内所やコインロッカーなどを備えている。駅周辺にはいわき駅ビルやいわき駅ビルや大型ショッピングセンター、各種飲食店などが点在。なかでも、いわき駅から徒歩約4分の夜明け市場はレトロな飲食店街を改装整備したスポットで、注目度が高い。
夜明け市場
シャッター街が見事に復活!復興のシンボルといえる飲食店街
東日本大震災によって営業ができなくなった飲食店オーナーやいわきを盛り上げたいと集まった起業家たちによる復興商店街。
かつて映画ロケにも使われたレトロな飲食店街「白金小路」をリニューアル。居酒屋や焼き鳥屋、イタリアン、ダイニングなど、個性豊かな飲食店が15店舗ある(2020年6月現在)。地元で人気が高かった飲食店も多いため、どの店に入ってもおいしい料理が食べられる。
「gohoubi(ごほうび)」では、世界のビールや女性でも飲みやすいフルーツを使ったフルーツビールを提供。お酒に合うおつまみも豊富で、店主の出身地・長野の郷土料理「信州おやき」のほか、地元産のサンシャイントマトを使用した手包み餃子も好評だ。
「いわき郷土料理 和歌」(写真左上)では、毎日変わる手作りのおばんざいをあじわうことができる。「Rugged(ラギッド)」(写真右上)では、カジュアルな雰囲気で、フランスの家庭料理や伝統料理を楽しめる。「和楽 魚菜亭」(写真下)は、いわき市久之浜で人気だった和食屋で、しばらく閉店していたが、お客さんの声に押されてここにオープンした。店主が吟味した新鮮ないわきの魚介類を堪能できる人気店だ。
夜明け市場
住所 | 福島県いわき市平白銀町2-10 |
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時間 | 店舗により異なる |
定休日 | 店舗により異なる |
交通アクセス | JRいわき駅から徒歩約4分 |
URL | http://www.touhoku-yoake.jp/ |
いわき駅周辺で宿泊
いわき駅周辺にはリーズナブルなホテルも多いので、ここで宿泊をしよう。翌日は国宝の白水阿弥陀堂や平安時代創建と伝わる古社、飯野八幡宮(写真)へ足を運ぼう。
白水阿弥陀堂
国宝にも指定されている平安時代の阿弥陀堂
白水阿弥陀堂は奥州藤原氏初代当主・藤原清衡(きよひら)の娘である徳姫が1160(永暦元)年に建立したと伝わる。平安時代後期の代表的な阿弥陀堂建築で、国宝に指定されている。堂内には創建当時極楽浄土を描いた壁画があったが、ほぼ失われてしまった。現在では色彩を復元した極彩色の文様が飾られている。国の重要文化財である阿弥陀三尊像と持国天・多聞天王像が安置されている。
美しい曲線を描く阿弥陀堂の屋根と浄土庭園が優美な姿を見せてくれる。浄土庭園とは、極楽浄土の世界を再現したもので、御堂をはじめとした寺院建築物の前に池が広がっている。
浄土庭園では、さまざまな草花を見ることができる。夏にはアヤメや古代ハスが池を彩る。ほかにも春には梅や山桜、秋には萩や紅葉などが見られる。
白水阿弥陀堂
住所 | 福島県いわき市内郷白水町広畑221 |
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問い合わせ先 | 0246-26-7008 |
時間 | 8時30分~16時(11月~3月は~15時30分) |
定休日 | 第4水曜日(8月12日~16日、12月20日~30日休。不定休あり) |
交通アクセス | JRいわき駅から新常磐交通バス「川平」行き約19分、あみだ堂下車約5分 |
値段 | 大人500円、子供300円 |
URL | http://shiramizu-amidado.org/ |
飯野八幡宮
数多くの国の重要文化財がある平安時代の創建と伝わる古社
飯野八幡宮は1063(康平6)年、源頼義が奥州合戦の際に石清水八幡を勧請し、戦勝を祈願したのが始まりと伝わる。1603(慶長8)年に、藩主の鳥居忠政が平城を築くため、現在地へと遷座したという。現在の本殿は1615(元和元)年に着工した入母屋造で、国の重要文化財に指定されている。ほかにも、1658(万治元)年建立の楼門(写真)や元禄時代(1688~1704)に建立されたと推測される唐門なども国の重要文化財だ。
例大祭は9月15日に行われ、直前の土・日曜に古式大祭と流鏑馬(やぶさめ)神事が行われる。流鏑馬神事は古くから行われ、作占いのための行事といわれている。縁起物としてショウガや扇子をまくことから「生姜祭り」とも呼ばれている。
神様のご利益を得るために身に付けるお守り。生活様式の変化から今では少し身に付けづらいと感じる人も多いのでは。地元で活躍する物作り作家グループ「御守り・ラボ」が神社内で開催するワークショップでは、ライフスタイルに合ったお守りを作ることができる。10人以上の予約制で、作家がていねいに教えてくれる。時間は約2時間、1人1500円~。
飯野八幡宮
住所 | 福島県いわき市平八幡小路84 |
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問い合わせ先 | 0246-21-2444 |
時間 | 境内自由 |
交通アクセス | いわき駅から徒歩約17分 |
URL | http://www.noteplan.net/8man/index.htm |
旅のまとめ
磐越東線はローカル路線で1日の本数が少なく、観光スポットが点在しているため、1日で沿線の観光スポットを見て回ることが難しい。そのため1泊2日のプランで、1日目は始発駅の郡山駅から途中下車して沿線の観光スポットをめぐり、2日目は終着駅のいわき駅周辺を観光するのがおすすめルート。その際は「週末パス」などお得なきっぷを活用しよう!
地図
- ※写真協力:高柴デコ屋敷観光協会、田村市滝根観光振興公社、小野町産業振興課、株式会社47PLANNING、塙 広明、飯野八幡宮
- ※文:速志 淳(株式会社アド・グリーン)
- ※掲載されているデータは2020年6月現在のものです。変更となる場合がありますので、お出かけの際には事前にご確認ください。