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2021.01.29旅行【北海道・川湯〜阿寒湖温泉編】旅行作家・野添ちかこが列車で行く!のんびりご褒美温泉旅

列車でのんびり温泉旅はいかがですか?

仕事に家事に人間関係に……現代人はみんなちょっとお疲れ。そんな毎日を送る人に“何もしなくていい”週末に列車で行ける温泉旅を提案します。好きなときにお風呂に入って、待っていればおいしいご飯が出てきて、移動に列車を選べば乗っているだけで目的地まで運んでくれます。たまには日常を忘れてのんびり、自分にご褒美をあげよう。きっと明日からも頑張ろう!と思えるはず。

火山と湖、森の景色を楽しむ

壮大な大自然が満喫できる「道東」エリアのなかでも阿寒湖、屈斜路湖、摩周湖を擁する阿寒摩周国立公園には、火山活動によって生まれた温泉がいくつも点在しています。今回は釧路駅から川湯温泉駅まで列車旅を楽しみ、レンタカーで屈斜路湖を経由して阿寒湖温泉へ向かいます。モクモクと噴煙あげる「硫黄山」やボコボコと煮え立つ「ボッケ」(泥火山)、海辺に湧く絶景の「コタン温泉露天風呂」など、本州ではなかなか出合えないスケールの大きな景色に心躍ります。

旅の起点はJR根室本線の釧路駅。1つ隣の東釧路駅から分岐する釧網(せんもう)本線は、東釧路駅~網走駅を結ぶ全長166.2キロメートルの路線で、車窓には釧路湿原斜里岳など北海道らしい絶景が広がります。冬季は釧路駅~標茶駅間で「SL冬の湿原号」が走るので、この区間だけSL乗車体験をするのもいいでしょう。大きなダルマストーブでスルメを炙って食べれば、ノスタルジックな気分になれること請け合いです。


釧路湿原を眺めて北上する釧網本線。※写真はSL冬の湿原号


「SL冬の湿原号」についてもっとくわしく

SL冬の湿原号―リニューアルした人気のレトロ観光列車で、冬の北海道旅へ(THE列車)

名湯、川湯温泉にやってきた

三角屋根がかわいい木造の名駅舎


川湯温泉駅舎 川湯温泉駅の駅舎

川湯温泉駅は赤い三角屋根が特徴的な北海道屈指の名駅舎。1930(昭和5)年に開業しました。

林業が盛んだった土地柄のため木材をふんだんに使っていて、建物の下部はイチイの丸太をログハウスのように組み、その上は樺の木で装飾を施した洒落た外観が目を引きます。車寄せの支柱もイチイの大木です。

駅舎の中には貴賓室を利用した喫茶店「オーチャードグラス」があったり、構内に足湯があったり、1日片道5〜6便しか列車が通らない無人駅とは思えない造りです。


川湯温泉駅足湯 木のベンチ、テーブルが置かれた足湯。室内なので冬でも入れます

駅前にカフェもあります


森のホール 「森のホール」。川湯温泉駅からすぐ

駅からすぐ近くにカフェもありますので、まずは腹ごしらえから。
かわいらしい木造の建物「森のホール」では、弟子屈(てしかが)産の野菜を使ったヘルシーなランチやスイーツが食べられます。

地元の人が買いにくるケーキやプリン、タルトなどは新鮮なミルクや卵を使っていてとてもおいしそう。

もともとは別の場所でやっていたカフェをこの場所に移転し、10年が経つそうです。


森のホールの内観 若いお客さんに人気のカフェです

「野菜120g以上」と書かれた「森ごはん」は、飲み物付きで1100円(税別)。
小さな駅にあるカフェなのに、驚くほど、若い人で賑わっていました。


肉と魚、両方入ってボリューミーなランチ「森ごはん」1100円(税別)


パン派の人は「森のモリモリサンド」950円(税別)


森のホール

住所 北海道川上郡弟子屈町川湯駅前2-1-2
問い合わせ先 015-483-2906
時間 10:00〜17:00(祝日の場合は翌日)
定休日 月・火曜
交通アクセス JR釧網本線川湯温泉駅から徒歩1分
URL https://www.facebook.com/kawayumorinohall

酸性泉で交互浴〜「お宿 欣喜湯(きんきゆ)」

川湯温泉は古くはアイヌ語で「セセキべツ(熱い川)」と呼ばれていて、温泉街を温泉の川が流れています。

「お宿 欣喜湯」の温泉は、pH1.9という酸性なので、釘を浸しておくと2週間で針金ほどに細く溶けてしまう強烈な温泉です。
脱衣所には「家電の寿命は約3年?! 川湯ではテレビ、冷蔵庫、ドライヤーなど、約3年で壊れます」という衝撃的な表示もあって、この温泉の凄さが窺い知れます。

さっそく湯船へと向かいます。
泉質は、酸性・含鉄(Ⅱ)‐ナトリウム‐塩化物・硫酸塩泉。泉温は59.6度です。

浴室は2019年4月に改装、もともと内湯だったのをぶち抜いて、1階部分を半露天風呂にしました。
酸性の刺激の強い温泉というと、ゆっくり入るイメージはないですが、ここの湯は、浴客が目をつむって長湯をしていて、驚きました。

そう、ここにはぬるめの湯の浴槽があるんです。
しかも「水は入れず、熱交換と調整で温度を下げている」(予約センター・センター長の川向博之さん)そうで、源泉100%かけ流しにこだわって温泉を提供しています。

女湯の半露天風呂は、真ん中があつ湯で42℃、右側の湯船は40℃、左側の湯船は39℃、ぬるめの浴槽です。


温度の異なる湯船が3つ並ぶ半露天風呂


お宿 欣喜湯 女湯の湯船 女湯の39℃、ぬるめの浴槽

湯は白濁のにごり湯で、左側の湯だけが青みが強い美しい水色でした。
温度が低いのでゆっくりと入れます。

宿のホームページをみると、川湯の温泉は、病気の治療に用いられる療養泉。動脈硬化症、高血圧症、代謝性疾患の糖尿病、痛風、リウマチ性疾患、呼吸器疾患の慢性気管支炎、ぜんそく、慢性胃腸病、皮膚病、さらには重金属中毒症、自律神経失調症、交通事故などによる後遺症、慢性婦人科疾患などに効果があるようです。

39℃は20分、40℃なら15分程度入るのが適正時間と記されていました。


お宿 欣喜湯

住所 北海道川上郡弟子屈町川湯温泉1-5-10
問い合わせ先 015-483-2211
時間 チェックイン 15:00/チェックアウト 10:00
定休日 不定休
交通アクセス JR川湯温泉駅より阿寒バスで約8分
値段 日帰り入浴700円(13〜21時)、1泊2食1万円(1人宿泊1万3000円) (税別)~
URL https://www.kinkiyu.com

噴気あがる硫黄山(アトサヌプリ)


冬の硫黄山 冬の硫黄山は見応え十分

温泉街でレンタカーを手配し、屈斜路湖を経て阿寒湖方面へ。その前に川湯温泉の源である「硫黄山」へ向かいます。
正式名称はアトサヌプリといい、アイヌ語では「裸の山」という意味だそうです。
今も噴煙をあげる活火山で、明治期には硫黄鉱山から硫黄を採掘、馬や鉄道で港まで運び、さらに釧路から船で輸出していました。

さきほど入った酸性の川湯温泉は、摩周湖の伏流水が硫黄山の地下を通りぬけるときに、熱せられ、成分を伴って湧出すると考えられているそうです。
もくもくと勢いよく噴気があがり、黄色い硫黄の結晶が付着した岩を間近に観察することができます。

屈斜路湖沿いのワイルドな温泉

自分で掘って入る「砂湯」

屈斜路湖は日本最大のカルデラ湖。はるか昔の火山活動によってできた湖です。湖の東岸、北海道道52号線沿いにある「砂湯」は温泉が湧き出す砂浜です。あまりに大きな湖ゆえ、海の砂浜のようにも見えます。


屈斜路湖畔の砂湯 屈斜路湖畔の砂湯。ベンチが置いてあるのでゆったり足湯を楽しめます

湖畔に足湯が1つありますが、せっかくなら砂浜で足湯にトライ! 砂浜にいくつもある手掘りの穴の中は温かな温泉です。
そう! ここは砂浜を掘ると天然温泉が湧くのです。

冬にはシベリアから渡ってきたオオハクチョウがここで休憩をする姿も見られます。


温かい足湯はナトリウム‐炭酸水素塩泉


砂湯

住所 北海道川上郡弟子屈町屈斜路湖畔砂湯
問い合わせ先 015-482-2940(弟子屈町役場観光商工課)
時間 24時間
定休日 なし
交通アクセス 川湯温泉街より車で約13分
値段 無料
URL https://www.masyuko.or.jp/introduce/sunayu/

白鳥と混浴気分。「コタン温泉露天風呂」

コタン温泉露天風呂は、屈斜路湖のほとりにある絶景の野天風呂。
石造りで、真ん中の岩だけで男女の仕切りをしている自然のままの露天風呂です。
屈斜路湖の水面と湯船の水面がほぼ同じ高さで、湖に浸かっているかのような気分が味わえます。


コタン温泉露天風呂、こちらは夏の写真

仕切りはあるものの、管理人さんがずっと張り付いているので、女性はちょっと入りづらいかな。
脱衣所は男女別に1人程度が入れる小屋があり、水着やタオルの着用も可能です。

冬には湖に白鳥が浮かび、白鳥と混浴をしているような幻想的な気分が味わえます。


白鳥が飛来するコタン温泉露天風呂 白鳥が飛来するコタン温泉露天風呂。冬季は白鳥と混浴しているかのよう


コタン温泉露天風呂

住所 北海道川上郡弟子屈町屈斜路古丹
問い合わせ先 015-482-2940(弟子屈町役場観光商工課)
時間 24時間
定休日 なし
交通アクセス 川湯温泉街より車で約20分または川湯温泉駅よりバスで約35分
値段 無料
URL https://www.masyuko.or.jp/introduce/kotannoyu/

阿寒湖温泉に宿泊

ボコボコと泥火山が湧く「ボッケ」

「ボッケ」とはアイヌ語で「煮え立つ場所」という意味の「ポフケ」が訛ったもの。
阿寒湖の成り立ちなどを学べる阿寒湖畔エコミュージアムセンターから遊歩道を500メートルほど歩いた場所に「ボッケ(=泥火山)」があり、熱泥が火山ガスとともに噴出し、あちこちに大きなあぶくを作っています。


泥火山の「ボッケ」。近くにいくとボコボコと音が聞こえます。ボッケ遊歩道は1周1.5キロメートル

湧き出す温泉は100℃ほどの高温。
そのため、冬季でもこのあたりはほとんど雪が積もらないそうです。

遊歩道はエゾマツ、トドマツなどの針葉樹やオヒョウニレ、カツラ、シウリザクラ、ナナカマドといった広葉樹が交じりあった森林に覆われ、エゾリスやエゾシカなど野生生物が生息する豊かな自然が残っています。

湖を眺める「あかん鶴雅別荘 鄙の座(ひなのざ)」

阿寒湖にある宿の中でハイクオリティな滞在ができる宿といえば「あかん鶴雅別荘 鄙の座」でしょう。
阿寒湖の三大巨匠といわれ、世界的にも有名な木彫り作家の故・藤戸竹喜氏、故・瀧口政満氏の作品を飾るギャラリースペースがロビーなどにあり、芸術作品が身近に感じられます。


土間ギャラリーでは、コタンコロカムイ(村の守り神であるシマフクロウ)の木彫が羽を広げて出迎えてくれます あかん鶴雅別荘 鄙の座 エントランスの彫刻


阿寒湖を望むロビー。家具にも木彫彫刻が施されています

5タイプの客室すべてがスイートルームで、なかでも湖を望む客室がおすすめ。
25室ある客室はすべて趣の異なる露天風呂付きで、いつでもかけ流しの温泉に入れるのが魅力です(大浴場は内湯のみかけ流し)。

この宿は、共有部分での楽しみが充実しています。
アイヌ文様が施された10メートルの一枚板のカウンターが夜、大人のためのバーカウンターになったり、ライトアップした足湯があったり、真空管アンプで音楽が聴けたり、夕食後も館内で楽しめるんです。浴衣でバーに出かけて、思う存分飲む(バーラウンジの飲み物は無料)、贅沢な夜が過ごせますよ。22〜24時には鮭のお茶漬けのサービス(なくなり次第終了)も。小腹が空いたら、客室からロビーラウンジへと出かけてみましょう。


バーカウンター


阿寒湖を望む足湯

客室では、ベッドに寝転びながら、枕元で電気や温度を調節できますし、トイレは扉を開ければ自動点灯して、快適です。

阿寒湖のオンシーズンは夏と冬。
冬季は凍った阿寒湖の上をスノーモービルで疾走したり、ワカサギ釣りをしたり、氷上のアクティビティが楽しめるそうです。


あかん鶴雅別荘 鄙の座

住所 北海道釧路市阿寒町阿寒湖温泉2-8-1
問い合わせ先 0154-67-5500
時間 チェックイン 14:00/チェックアウト 11:00
定休日 不定休
交通アクセス JR釧路駅より車で約1時間30分またはJR川湯温泉駅より車で約1時間
値段 1泊2食4万5000円(税別)〜
URL https://www.hinanoza.com

秘湯好きなら「山の宿 野中温泉」

翌日はライダーやキャンパーがひっきりなしにやってくる、オンネトーにある国民宿舎「山の宿 野中温泉」まで足を延ばしました。

まさに、火山の恵みを凝縮したような自然湧出の温泉です。
泉質は、含硫黄-カルシウム・マグネシウム・ナトリウム-硫酸塩・塩化物泉。


女湯の浴室

灯油みたいな匂いがする、かなり個性的な温泉でした。
浴室に、「硫化水素ガスがあるから窓は開けています」「長時間のご入浴はご遠慮ください」という注意書きが掲示されていました。

PH6.2、中性だというのに、ビリビリと骨の髄まで響いてくるようなパワフルな温泉です。源泉温度は45.6℃とそう高くはありませんが、温度以上の目に見えない火山エネルギーがギュッと凝縮されているのでしょうか。

冷えた体にはかなり熱く感じたけれど、かけ湯をして慣らしているうちに、入れるようになりました。
先客のキャンプ帰りの女性は、足を虫に刺されたとのことで、「痛くて熱くて入れない!!」「かけ湯だけでも十分に温まった」と言って、かけ湯で満足してキャンプ先へと戻っていきました。

湧水と源泉のかけ湯の枡があって、風情があります。扉の向こうの露天風呂は白濁はしておらず、無色透明。

秘湯感漂う全10室の野中温泉、まずは立ち寄り湯から挑戦してみてはいかがでしょう。


手前は湧水と源泉のかけ湯の枡


山の宿 野中温泉

住所 北海道足寄郡足寄町茂足寄159
問い合わせ先 0156-29-7321
時間 チェックイン 15:00/チェックアウト 10:00、立ち寄り入浴は10:00〜19:00
定休日 不定休
交通アクセス 阿寒湖温泉街より車で約20分
値段 立ち寄り入浴大人400円、1泊2食7500円(税別)〜
URL http://www.minkoku.com/yado/top.php?yado_id=7

この旅の行程

(行き)JR快速しれとこ摩周号 釧路駅8:57発→川湯温泉駅10:27着(所要時間:1時間30分)、阿寒バス 川湯駅前12:05発→大鵬相撲記念館前12:15着(所要時間:10分)

(帰り)JR釧網本線 川湯温泉駅16:59発→釧路駅18:45着(所要時間:1時間46分)

知っているとちょっと楽しい「鉄道豆マメ知識」【釧網本線の駅名】

北海道の地名は、アイヌ語が語源とされている「長万部(おしゃまんべ)」や「苫小牧(とまこまい)」など、読み方が難しいイメージがありますよね。そしてそれは駅名も同じ。今回の行程で乗車する釧網本線にも難読駅名がたくさんあります。そこで難読駅名を由来とともにご紹介します。読み方は最後に記載するので、何と読むのか考えみてくださいね。

(1)網走駅
「アパシリ」というアイヌ語を漢字にあてたものとされています。「アパシリ」の意味は「ア・パ・シリ(我らが見つけた土地))」や、「アパ・シリ(入り口の地)」、あるいは「チバ・シリ(幣場[儀式を行なう場所]のある島)」など諸説あります。

(2)標茶駅
「シペッチャ(大きな川のほとり)」というアイヌ語の発音がなまった単語です。標茶町の中心には釧路川が流れています。

(3)知床斜里駅
知床は「シリ・エトク」または「シリ・エトコ」というアイヌ語で「地(の)・突端部」すなわち岬の意味だとされています。斜里は「サル」または「シャル」からきていて、いずれも「アシの生えているところ」の意味です。知床斜里駅はもともと斜里駅でしたが、知床国立公園の玄関口として多くの人に知ってもらいたいという理由から1998年に改称されました。


さて、読み方ですが【(1)あばしり(2)しべちゃ(3)しれとこしゃり】です。
いかがでしたか?全部読めた方はもう鉄道ファンですね。

移動も楽しい時間になりますように。


著者紹介

野添ちかこ

温泉と宿のライター/旅行作家

観光の専門紙記者を経て、2006年フリーに。新聞、雑誌、WEB、テレビ、ラジオなど各種媒体で温泉と宿の情報を紹介。現在、NIKKEIプラス1(日本経済新聞土曜日版)第3週に「湯の心旅」連載中。著書に『千葉の湯めぐり』(幹書房)。3つ星温泉ソムリエ、温泉入浴指導員、温泉利用指導者(厚生労働省認定)、国立公園満喫プロジェクト有識者会議委員(環境省)、岐阜県中部山岳国立公園活性化プロジェクト顧問、宿のミカタプロジェクトチーフ・アドバイザー。

  • 写真/野添ちかこ、(硫黄山)弟子屈なびフォトギャラリー、(コタン温泉露天風呂)弟子屈町役場 観光商工課 、(車両写真)交通新聞クリエイト
  • 掲載されているデータは2021年1月現在のものです。変更となる場合がありますので、お出かけの際には事前にご確認ください。
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