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2021.02.26旅行【岐阜・福地温泉編】旅行作家・野添ちかこが列車で行く!のんびりご褒美温泉旅

列車でのんびり温泉旅はいかがですか?

仕事に家事に人間関係に……現代人はみんなちょっとお疲れ。そんな毎日を送る人に“何もしなくていい”週末に列車で行ける温泉旅を提案します。好きなときにお風呂に入って、待っていればおいしいご飯が出てきて、移動に列車を選べば乗っているだけで目的地まで運んでくれます。たまには日常を忘れてのんびり、自分にご褒美をあげよう。きっと明日からも頑張ろう!と思えるはず。

絶景の見どころいっぱい。特急ひだで高山へ

飛騨川の流れを間近に眺めつつ特急「ひだ」が進みます。この列車の窓は天地が広く作られているので、景色を楽しむのに最適です。観光列車らしく、車内アナウンスで要所要所、見るべきポイントを教えてくれて、車窓からの眺めに見入ってしまいます。なかでも見どころは約12キロメートルの「飛水峡(ひすいきょう)」。上麻生駅を通過して深い谷が見え始めると、飛水峡を紹介する車内アナウンスが流れてきました。川の浸食によって生まれた険しい峡谷には奇石・怪石が連なり、中国の耶馬渓にも劣らないと評判の絶景スポットです。さらに進むと、車窓の右手に見えていた飛騨川は、飛騨金山駅の手前から、車窓の左側へと移り、グリーンの川面が美しい渓谷が見えてきました。「中山七里(なかやましちり)」です。途中、「日本三名泉」の一つ、下呂温泉がある下呂駅や、滝と炭酸泉をアピールする飛騨小坂(ひだおさか)駅など知っている地名を通りすぎ、高山駅へ。車窓から見えるのは川にかかる橋、民家と田畑……。人々の暮らしがすぐそこにある農村風景に心和みます。本日の目的地、奥飛騨温泉郷・福地温泉は高山駅からさらにバスに揺られて1時間ちょっとです。


「ひだ」からの飛水峡の眺め ※写真はキハ85系(ワイドビュー)ひだにて撮影


特急ひだの詳細はこちらでチェック

明治期の豪農の館を移築

奥飛騨温泉郷は3000メートル級の山々が連なる北アルプスの麓にある、平湯、新平湯、栃尾、新穂高、福地の5つの温泉地の総称。
奥飛騨温泉郷には共同湯がいくつも点在し、旅館のみならず小さな民宿でも露天風呂をもっていることから、露天風呂の数は日本一といわれています。

目指す福地温泉は山里の素朴ないで湯。平家の落人伝説が残り、平安時代には村上天皇がおしのびで療養し、「天皇泉」という呼び名が伝えられていることからも古い歴史が偲ばれます。


湯元 長座。玄関周りは新潟の豪農の屋敷だった建物

囲炉裏端での食事と飛騨の地酒のおいしさが忘れられずに再訪したのは「湯元 長座」。
1975(昭和50)年頃から囲炉裏がある古民家宿ではありましたが、現在のような形が完成したのは、1989(平成元)年のこと。先代社長・小瀬武夫さんが「古民家を移築して風情ある宿をつくれば、旅人の心に響くだろう」と、飛州、越州の山間から古屋を譲り受けて建てあげ、唯一無二の古民家移築の宿ができあがりました。鉄筋コンクリートの近代的な宿をつくるより、労力もお金も要します。

“失われゆく文化こそ、日本の宝”
おそらく先代は先見の明があったのでしょう。
ひたすら、田舎らしさ、奥飛騨らしさを追求しました。
この目論見通り、古民家移築の宿はいまなお人気で、湯元 長座は古民家再生の宿の先駆けとして、注目される存在です。


囲炉裏の間に炭火が灯る

玄関周辺は新潟から運んできた築150年の豪農の屋敷。「1棟建てるのに2〜3軒の古材を使うから、おそらく10軒分くらいは使ったんじゃないか」と社長の小瀬慶孝さんは言います。いずれも雪深い土地の建屋を移築したものです。太い梁や柱は時間の経過とともにさらに重厚さを増しています。

ロビーの大囲炉裏には、鹿やカモシカの毛皮がじゅうたん代わりに敷いてあって山宿らしい雰囲気です。ちろちろと炭火が灯り、ゆっくりとした時間が流れています。この宿には何度か行っていますが、しっとりと落ち着いた滞在ができて、旅慣れた大人におすすめです。

芯からポカポカ。充実のお風呂

客室で野草グラノーラ入りの味噌煎餅(お茶菓子)を食べてから、浴衣に着替えてお風呂へと向かいます。

風呂は男女別の大浴場と3つの貸切風呂、そして一旦玄関を出て、散策路を歩いていった先にある、高原(たかはら)川沿いの露天風呂「かわらの湯」。さらに昨年末に完成した貸し切りの露天風呂があります。客室27室(新型コロナウイルスの影響で現在稼働しているのは客室20室)に対してこれだけの数の風呂がありますので、他のお客様と出会う確率はかなり低めです。

男女別の大浴場には、山から切り出した大きな丸太を用いた内湯と岩の大露天風呂があります。2つに仕切られた湯船には、あつめの湯と少し温度を落としたぬるめの湯が満たされていて、朝と晩とで入り分けることができます。

内湯の手すりには天然の曲がり木が使われていて、温かみのある空間です。


女湯の大浴場


曲がり木の手すりが温かみを添えます

扉から外に出ると、キンと冷えた空気が気持ちいい露天風呂です。
露天風呂も岩で仕切られていて、湯口に近い方があつ湯、遠い方はぬる湯で、ぬる湯であれば長く浸かることができます。


自然を目一杯満喫できる露天風呂

3つの家族風呂は露天風呂付き

さらに、渡り廊下を歩いていった先に3つの家族風呂(貸切風呂)があります。
鍵をかけると、入口のランプが点灯して、人が入っているかどうかが分かる仕組みです。

1つの個室風呂の中に檜の内湯と岩組みの露天風呂両方が備えられ、贅沢な造りです。露天風呂は奥飛騨の山々を望む素晴らしい眺望です。


家族風呂から山も眺められます

源泉は4本あって湯量豊富。
泉質は単純温泉ながら、白っぽく濁っているようにも見えます。滑らかな肌触りの湯はとにかくよく温まって、じんわりと体の凝りが解きほぐされていくのを実感することができるでしょう。コロナ禍でお疲れの人に入ってほしい極上湯です。

川沿いの「かわらの湯」


轟々と流れる川沿いで、豪快な湯浴みができる「かわらの湯」

この宿に泊まったら、「かわらの湯」へ行くことも忘れずに。
一度、宿から外に出なければいけないのが難点ですが、散歩がてら、自然林の中を散策するのは気持ちがいいものです。
高原川沿いにある絶景露天風呂は大浴場とは違う源泉を用いていて、開放的な雰囲気。一浴の価値ありです。

囲炉裏でいただく郷土料理


山里料理にも関わらず洗練された彩りの前菜

夕食は囲炉裏を囲んでいただきます。
最初に出てきたのは、大女将が漬けた手作り梅酒
地野菜や川魚など飛騨ならではの郷土の味覚をたっぷりと味わえるのが嬉しいですね。

前菜は器の上にかわいらしい小鉢がのっていて、センスの良さを感じます。素朴ながら味わい深いお料理の数々です。
網茸とセロリの飛騨林檎和えは甘辛く味付けられた茸に林檎の自然な酸味が利いて食欲をそそります。
甘辛のタレで和えたむかごのタレ焼きは塩味もプラスされ、日本酒とよく合います。

取材したのは秋でしたので、焼き栗、塩銀杏、紅葉人参羹が秋らしさを添えていました。

お造りは「津久里」と書いてあって、飛騨鱒の二種盛り。生と炙りを両方いただけます。
川魚を炙ることでより旨味が引き出されます。


外はパリッ、中はもっちりとした食感。醤油ベースの味がついた飛騨揚げ漬け(右)など、飛騨地方ならではの焼き物が味わえます

焼き物は岩魚や飛騨揚げ漬け、五平餅。
メインは飛騨牛のすきやきで、さらに手摘み山野草天ぷらへと続きます。

丁寧で繊細な山里料理を食べに、またこの宿を訪れたいと思いました。


湯元 長座

住所 岐阜県高山市奥飛騨温泉郷福地786
問い合わせ先 0578-89-0099
時間 チェックイン 15:00/チェックアウト 10:00
定休日 不定休
交通アクセス JR高山駅よりバスで1時間10分、福地温泉下車、徒歩4分(福地温泉口は3分)
URL http://www.cyouza.com/

福地温泉の立ち寄りスポット

土産探しなら、「福地温泉朝市」へ

宿からは歩いて5分くらいでしょうか。
朝市というと、何人もの農家さんが農産物を持参し、自分で販売する姿を思い浮かべますが、福地温泉の朝市はちょっと違います。商店の一角に、農家さんから届く農作物が委託販売されている感じでしょうか。


昭和レトロな看板が目印のお店です

わさびは道の駅の駅長さんから、干し椎茸はここから車で8分くらいの農家の人から、寒干し大根は車で40分かかる山之村から届いたものです。いろいろな人がもってきてくれます」と福地温泉朝市の2代目・井上健太郎さんが教えてくれました。


福地温泉周辺の農作物を売る、福地温泉朝市2代目・井上健太郎さん


宿の売店にはないものが売っているかも

春は山菜、夏は新鮮野菜、秋は天然茸、冬は寒干し大根など旬のものが並びます。
お宿で買えない地元野菜のほか、瓶詰めや乾燥野菜など保存食も売っているので、土産物探しに重宝します。

私は林檎と干しゼンマイ、ハシバミ(ヘーゼルナッツ)を購入しました。
林檎と干しゼンマイは飛騨産でしたが、ハシバミは飛騨産ではなく、原料をアメリカから仕入れて、長野で加工したものだそうです。ちょっと残念……!

宝物探しをするような感覚で買い物ができて楽しいですよ。


福地温泉朝市

住所 岐阜県高山市奥飛騨温泉郷福地110
問い合わせ先 0578-89-3600
時間 8:30〜11:00(11月15日〜4月14日)、6:30〜11:00(4月15日〜11月14日)
定休日 無休
交通アクセス JR高山駅よりバスで1時間10分、福地温泉下車、徒歩2分
URL https://www.okuhida.or.jp/archives/5914

福地の化石を展示する「福地化石館」


奥飛騨の知られざる悠久の歴史が学べます

温泉街の中心部、昔ばなしの里の一角にある「福地化石館」は、福地温泉周辺で発掘された化石を展示しています。化石のコレクションは、民宿(現在は「隠庵 ひだ路」)を経営していた山腰悟さんが蒐集したコレクションがメインです。

福地一帯に眠っていた化石は、標高950メートルの山奥の秘湯がかつて海の底にあったことを物語っています。


デボン紀前期のハチノスサンゴの化石。サンゴの表面の模様が蜂の巣に似ていることから名付けられました

福地温泉では、デボン紀やシルル紀、オルドビス紀といった古生代の化石が見つかっており、4億年前はサンゴ礁の広がる浅くて暖かい海だったことが証明されています。

化石館には、地球の神秘が詰まっています。


福地化石館

住所 岐阜県高山市奥飛騨温泉郷福地110
問い合わせ先 0578-89-2793
時間 9:00〜17:00
定休日 無休
交通アクセス JR高山駅よりバスで1時間10分、福地温泉下車、徒歩2分
値段 無料
URL https://www.okuhida.or.jp/archives/1774

この旅の行程

(行き)JR高山本線(ワイドビュー)ひだ5号 名古屋駅9:39発→高山駅12:23着(所要時間:2時間44分)

濃飛バス 高山濃飛バスセンター13:40→福地温泉14:50(所要時間:1時間10分)

(帰り)濃飛バス 福地温泉口10:14→高山濃飛バスセンター11:31(所要時間:1時間17分)

JR高山本線(ワイドビュー)ひだ10号 高山駅12:33発→名古屋駅15:04着(所要時間:2時間31分)

  • 2021年2月時点の時刻です。おでかけの際は最新の時刻表をご確認ください

著者紹介

野添ちかこ

温泉と宿のライター/旅行作家

観光の専門紙記者を経て、2006年フリーに。新聞、雑誌、WEB、テレビ、ラジオなど各種媒体で温泉と宿の情報を紹介。現在、NIKKEIプラス1(日本経済新聞土曜日版)第3週に「湯の心旅」連載中。著書に『千葉の湯めぐり』(幹書房)。3つ星温泉ソムリエ、温泉入浴指導員、温泉利用指導者(厚生労働省認定)、国立公園満喫プロジェクト有識者会議委員(環境省)、岐阜県中部山岳国立公園活性化プロジェクト顧問、宿のミカタプロジェクトチーフ・アドバイザー。

  • 写真/野添ちかこ、(車両写真)交通新聞クリエイト
  • 掲載されているデータは2021年2月現在のものです。変更となる場合がありますので、お出かけの際には事前にご確認ください。
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