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2022.06.10旅行三方五湖(みかたごこ)と若狭国(わかさのくに)一の宮。ひとり旅の達人・佐竹敦が行く、15,000円で穴場旅【福井駅発・若狭町・小浜市の旅】

心地よい素朴さに触れる 福井県若狭町・小浜(おばま)市

日本の穴場スポットに行ってみたい。しかも安く楽しみたい。
そんな欲望のままに東へ西へ、一人でぶらりと旅立った。

今回は15,000円ちょっとで、福井県若狭町・小浜市へ。
福井梅発祥の地の道中で出会った売店で、梅土産を三つも買うほど虜に。
不思議な気持ちになった、南方の国の水上生活を思い出す舟小屋とは。
そして、千年杉に圧倒される若狭国の一の宮の神社。
最後の収支報告まで、お見逃しなく!

茅葺(かぶや)きの舟小屋で外国を感じる

福井はかつての越前国と若狭国からなる県である。現在では木ノ芽峠を境に嶺北(れいほく)と嶺南(れいなん)に地域分けされることが一般的だが、東尋坊(とうじんぼう)や永平寺といった福井県の有名観光地は越前国(嶺北地方)に多い。しかし今回は、どちらかといえば注目されることが少ない若狭国(嶺南地方)を訪ねてみることにした。


福井県 新幹線開業を控え、生まれ変わった福井駅からスタート

三方駅 JR小浜線の三方駅。単線の駅でのんびりとした風情が心地いい

朝7時前に福井駅を出発して北陸本線で南下し、敦賀(つるが)から先は小浜線に乗り換え、約2時間余りで三方駅に到着。今日の目的地である三方湖畔の舟小屋はここから7kmほどの場所にある。

小一時間ほど歩くと湖畔に道の駅 三方五湖があり、休憩がてら立ち寄ることにした。すると隣接して福井県里山里海湖研究所があり、2階部分は三方五湖自然観察棟となっていて、思いもよらずスタッフの方から三方五湖の自然について詳しく話を聞くことができた。

海とつながる三方五湖は三方湖、水月湖(すいげつこ)、菅湖(すがこ)、久々子湖(くぐしこ)、日向湖(ひるがこ)のそれぞれ塩分濃度の異なる5つの湖からなり、国内でも分布が限られた種をはじめとする貴重な魚類の生息地となっているとのことである。また水鳥も多く飛来する県内有数の場所でもあり、2005年にラムサール条約湿地に登録され、ここの伝統漁業は2018年に日本農業遺産にも認定された。


三方湖 五湖のなかで一番南にある三方湖。水面に浮かんでいるモミジのような水草はヒシ

そして先ほどから気になっていた湖面に茂っている水草は「ヒシ(菱)」という名で、一説によると菱形の菱はこの水草から命名されたとか。またヒシの種はトゲトゲしていて、忍者がいわゆる「まき菱」として使ったものだそうだ。

いやぁ~、何げなく立ち寄っただけだったのだが、思わずいろいろと勉強をさせてもらった。


まきびしに使う菱の種(福井県里山里海湖研究所) これが忍者が使ったというヒシの実。確かに踏んづけたら痛そうだ

道の駅をあとにして、湖畔をひたすら歩き続ける。道の脇には梅林が続き、直売所も時おり見かける。この三方湖畔は福井梅(西田梅)発祥の地だという。道すがらうめドリンク、ウメラルサイダーなど水分補給ならぬ梅エキスを補給しながら進む。


三方駅から舟小屋の道 三方湖のすぐ脇に広がる梅畑。近くには多くの梅の直売店も

梅ドリンク(梅の直売所・治兵衛) 梅の直売所で売られていた、うめドリンク。梅の香りがさわやか

歩き始めて4時間余り。ようやく、そして突如として三方湖畔に現れるのが、茅葺きの舟小屋群である。かつてこの三方湖西岸地区では、湖の対岸にある水田や梅畑と往来するために舟を使用していたそうで、舟小屋に格納されているのは漁のためのものではなく、農作業用の舟なのだという。

これらの舟小屋は明治時代からあったのだが、護岸整備が行われ、道路が整備されるとほとんど使われなくなったのだそうだ。


舟小屋 県道216号沿いにある舟小屋。小さな入江のようになっていた

それにしても湖の中に浮かんでいるかのような素朴で風情のある景観は、紛れもなく日本でありながら、どこか南方の国の水上生活を彷彿(ほうふつ)とさせ、摩訶(まか)不思議な気持ちになった。

舟小屋のあとは、せっかくここまで来たのだからもう一つくらい湖を見たいと思い、水月湖まで歩く。三方湖と水月湖はつながっていて、その境界に駐車場があった。そこには、ここから右が三方湖、ここから左が水月湖、であることを示す標柱があり実に親切でわかりやすい!

駅に戻ろうとしたのだが、さすがにまた歩くのはきつい。すれ違ったバスのことを思い出し、調べてみると若狭町営バスが走っているではないか。ただし、乗ろうと思ったバスは平日は予約制。さっそく電話をして予約をした。バスの予約をするのは初めてで、なんだか不思議な感じがする。予約したバスに乗り、10分余りで三方駅に到着。行きは延々と5時間以上も歩いたのに……。

静寂な境内に癒やされ 若狭国を思う

翌日は、昨日の反省を踏まえて東小浜駅からレンタサイクルで移動することにした。

まず向かったのは若狭姫神社(下社)。ここは若狭国の一の宮なのだが、いつ訪ねてもひっそりと静まり返っている。随身門をくぐるとまず見えるのが、御神木の千年杉だ。その名にふさわしい存在感でただただ圧倒される。


若狭姫神社 養老5(721)年創建と伝わる若狭姫神社(下社)。立派な御神木に圧倒される

続いて若狭彦神社(上社)を訪ねた。下社と同じく苔むした境内。飾り気のない、その様子は下社のさらに上をいく。ここだけ違う空気と時間が流れているようだ。それはあくまでも穏やかで包み込むようにやわらかい。心が完全に無になる。


若狭彦神社 若狭彦神社(上社)。神さびた雰囲気とは、こういうところのことをいうのだろう

その後、若狭彦神社、若狭姫神社の飛地境内で名水百選にもなっている「鵜(う)の瀬」を訪ねた。ここは毎年3月2日の夜に、奈良の東大寺二月堂のお水取りに先立って「お水送り」の神事が行われることで有名である。

この神事は東大寺二月堂の修二会(しゅにえ)に若狭の遠敷明神(おにゅうみょうじん)が遅れたため、そのお詫びにご本尊にお供えする御香水(おこうずい)を若狭から送ることを約束したことが始まりだといわれている。

鵜の瀬は神事が行われるだけに神々しい雰囲気と川のせせらぎの音が心地よく、清涼感に満ちあふれている。隣には鵜の瀬公園資料館が建てられていて、お水送りの資料が展示されていた。


鵜の瀬(名水百選) 遠敷川にある、お水送りの場・鵜の瀬。仏さまに供えるのにふさわしい清流だ

続いて若狭地方屈指の名刹である明通寺(みょうつうじ)を目指す。ここから明通寺は遠い。山を越えるのだろうか、トンネルも抜けた。

明通寺は静かな存在感があり、まさに深山の古刹といった趣だ。この寺院の本堂と三重塔は福井県唯一の国宝建造物であり、本堂と塔を一望する景観は素晴らしい。華美ではないが、質実剛健で重厚感があった。


明通寺 明通寺の本堂と、奥には三重塔。ともに国宝に指定された贅沢な空間

ゆっくりしていたいところだったが、気がつけばいい時間になっている。急いで東小浜駅へと向かった。

帰りの車窓を眺めながらぼんやりと旅を振り返る。若狭国は決して派手ではない。商売っ気も飾り気もない。ただひたすらに素朴でどこまでも自然体だった。万事控えめでつつましく心地がいい。都会の喧騒(けんそう)に疲れたら、また若狭国を訪ねてみたい。

さて今回使ったお金は?


今回使ったお金の表

残り1425円。


著者紹介

佐竹 敦 (さたけあつし)

日本全国の即身仏&五重塔&三重塔&一之宮&滝百選&棚田百選&国分寺跡をすべて訪ね歩いた日本秘境探訪家。ひとり旅の達人。テレビチャンピオン滝通選手権出場。
主な著書に『この滝がすごい!』(中経出版)、『日本の滝めぐり』(自遊舎)、『新型コロナウイルス感染記』(アドレナライズ)など。
本人としてはいたってまじめな歴史オタクの墓マニア。

  • 写真/佐竹 敦
  • 本連載は、月刊誌『旅の手帖』2022年7月号からの転載です

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発売日    2022.6.10
サイズ/判型    A4変型判
雑誌コード    05907-07


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