住民も乗客も! 沿線に広がる笑顔の輪
穏やかな瀬戸内海沿いを走る観光列車「伊予灘ものがたり」がこの夏、デビュー10周年を迎える。
全国各地を走るさまざまな観光列車のなかでも、“あること”がすごいと話題だ。
絶景に食事に車両に… おもてなしのつきない旅路
「伊予灘ものがたり」はJR四国初の本格的な観光列車として、2014年7月26日に運行を開始。2022年には車両を全面リニューアルし、現在は2代目に。今年5月には通算の乗客数が20万人を達成した。
美しい車窓を眺めながらその土地ならではの食事を楽しむ観光列車ブームの中で誕生した、“あること”とは…?
それは、沿線の地域住民による乗客へのおもてなし。
その盛り上がりがすごいと話題なのだ。
手作りグッスで大歓迎!(五郎駅)
様々なおもてなしで乗客をお出迎え!
例えば、野生のタヌキが現れる五郎駅では、列車通過時にたぬき駅長がホームでお出迎え。
八幡浜編・道後編では、伊予大洲駅近くの肱川(ひじかわ)橋梁を渡るときに見える大洲城から、スタッフが観光客とともに旗を振る。
そのほかの場所でも、横断幕や手作りの看板などを掲げた人々が手を振って歓迎してくれる。
「デビューにあたって、もしよかったら列車が通るときに手を振ってくださいと、沿線自治体にお願いをした程度でした。いまでは地域の方々が自主的にアイデアを出し合って、おもてなしをしてくれています」と話すのはJR四国の担当者。
当初は数カ所だったお手振りが、現在では沿線のいたるところで行われ、「ここまで広がるとは思わなかった」と驚く。おもてなし部隊がいると、車内アナウンスが流れ、列車は速度を落として運行する。乗客は思わず食事の手を止めて、笑顔で手を振り返すのだ。
たぬき駅長に注目(五郎駅)
駅に着いたら、武将とパチリ(大洲編・双海編、伊予大洲駅)
また、こんなエピソードも。10分間の停車時間がある下灘駅では、いつもお手振りに来る住民とリピーターの鉄道ファンが再会を喜んだ。ほんのひとときとはいえ、住民と乗客の心が通じる瞬間が確かにあり、もう一度乗りたいと思うのも頷(うなず)ける。
かつては“日本一海に近い駅”ともいわれた下灘駅。いまは人との距離がこんなに近い
地域の住民と乗客が一緒に紡いできた物語
それにしても、地域の住民のおもてなしの原動力とは一体何なのか。「もともと四国にはお遍路文化が根付いているので、訪れた人を進んで接待する県民性があるのかもしれません。お手振りが生き甲斐と言ってくれる高齢者や、近所で集まる機会ができてうれしいと話してくれる方もいて、列車を走らせていてよかったと実感します」。
10年の歴史のなかには観光列車として進化してきた物語だけでなく、地域の住民と乗客が一緒に紡いできた物語もあり、そんな心温まる物語の1ページに立ち会えるのもこの列車の魅力なのだ。
一日4便、時間によって表情を変える伊予灘の絶景を楽しめる
愛媛の旬の食材を詰め込んだ、双海編で提供される「内子杉の木箱で彩る和杉膳(わさんぜん)」5500円
リニューアル後に誕生した3号車個室「Fiore Suite(フィオーレ スイート)」。列車の中とは思えない豪華な空間
愛媛の旅の出発点 松山駅がリニューアル!


画像はイメージです
松山駅の高架化がこの秋、ついに完成。
2024年9月29日(日)から高架線へ切り替えられ、新しい松山駅の使用が開始される。
さらに、高架下に同日開業する商業エリア「JR松山駅だんだん通り」は「ぎゅっと、ずっと“愛媛を紡ぐ 松山GATE”」をコンセプトに、愛媛・松山の魅力を感じられる多彩な店舗が参入する。
特急「伊予灘ものがたり」
- ※協力・写真/JR四国
- ※文/香取麻衣子
- ※本記事は、月刊誌『旅の手帖』2024年8月号からの転載です