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2022.03.10旅行静岡の穏やかな「日本唯一」「世界一」を訪ねて…ひとり旅の達人・佐竹敦が行く、10,000円で穴場旅【静岡駅発・静岡県藤枝市・掛川市・島田市の旅】

まんまるのお城と丸い石垣のお城 静岡県藤枝市・掛川市・島田市

日本の穴場スポットに行ってみたい。しかも安く楽しみたい。
そんな欲望のままに東へ西へ、一人でぶらりと旅立った。

今回は10,000円ぽっきりで、静岡駅から静岡県藤枝市・掛川市・島田市へ。
あの4人の武将が滞在、家康死因の現場ともいわれる、藤枝市「田中城」の驚くべき“日本唯一”のまんまるとは?
「横須賀城」で築城技術に嘆息し、世界一長い木造歩道橋である島田市の「蓬萊橋」で気が遠くなる…。
「ま~るい」と「なが~い」がキーポイントの、食事も忘れるほど夢中になった今回の旅。
最後の収支報告まで、お見逃しなく!

まんまるなお城で、心もま~るく

「他に類をみない」「日本で唯一!」という言葉を聞くと、胸がドキドキして是が非でもそこに行ってみたいという思いに駆られる。
諸説あるが、日本には約2万5000のお城があったとされ、なかでも静岡県内には「他に類をみない」ユニークな城が二つある。今回はその埋もれた古城を訪ねてみた。


静岡駅前 今回の旅の出発地、静岡駅北口に立つ今川義元公像と竹千代君像

まずは藤枝市にある田中城から。静岡駅から東海道本線で15分ほどの西焼津駅が最寄りである。ここは一般的にはまったくといっていいほど知られていないが、実は“日本で唯一”円形の城なのだ。そう聞いただけでもインパクト大だが、現地の案内看板によると、同心円状に四重の堀と土塁に守られていた堅固な要塞だったようだ。それにしても、復元図を見ると本当にまんまるだ!

こんな特徴がありながら知名度がないのはなぜか。現地を訪ねてみるとその理由は一目瞭然。城も周辺も宅地化が進み、ごく一部の堀と土塁を除いてほとんど何も残っていないのだ。とはいいつつも、往時を偲ばせるほんの少しの痕跡を探して、本丸跡から歩き始める。

本丸跡は小学校になっていて、敷地の一部には田中城の復元模型がある。史実に忠実というわけではないが、四重の堀が再現されていたりして雰囲気はよくわかる。


田中城本丸 田中城本丸跡の小学校敷地内にある城郭の復元模型。前を通る道路から見ることができる

田中城三之堀土塁 田中城三之堀。奥の小高くなっているところが土塁の跡

続いて二之堀へ。わずかに残る堀跡には、大手二之橋が復元されている。その少し西側には、やはり少しだけ残る三之堀が。ここは堀に面して土塁も残り、上ることもできる。土塁はほかにも数カ所残っていた。

城跡の住宅地には、真っすぐな道はなく、どこも美しいゆるやかな曲線を描いて往時の“まんまるなお城”の様子を偲ばせる。閑静な住宅街とのどかな田園風景が混在した城跡を散策していると、いつの間にか自分の心までまるく穏やかになったような気がしてきた。またこの周辺は四重の堀があったためか、今でも水路が多く残り、せせらぎがさらに心を癒やしてくれる。


田中城跡の道 周辺の住宅地の道は、ゆるやかなカーブを描いている

ここは現存遺構こそ少ないが、代わりに多くの説明板や標柱があり、私が目にしただけでも三十数カ所も。そうした説明板などを読んでいるうちに、かつての城の姿が頭の中で立体的に見えてきた。

また城の南東隅には、史跡田中城下屋敷として、江戸時代後期の田中藩主・本多家の下屋敷庭園跡を整備、田中城ゆかりの建築物が移築・復元されている。なかでも本丸櫓(やぐら)は、田中城本丸の石垣の上に立っていたものだそうだ。櫓の中にはさまざまな資料が展示されており、必見はジオラマ模型。当時の様子が手に取るようによくわかる。


田中城ジオラマ 史跡田中城下屋敷に展示されているジオラマ模型


田中城下屋敷 史跡田中城下屋敷に移築された本丸櫓。数少ない当時の遺構だ

さらに田中城には、あと二つ特筆すべき点がある。一つはあの武田信玄、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康の4人の武将が宿泊・滞在したことがあるということ。もう一つは諸説あるが、家康の死因といわれているタイの天ぷらを食べたのがここだというのだ。普通に考えたら、どちらかだけでもスゴいことだと思うのだが。

遺構の保存状態がよければ、星形の五稜郭にも匹敵する人気の城だったかもしれない。なんとも惜しい。
夢中になっていたら、気づけば昼食も食べ忘れていた。そして宿泊予定のホテルにチェックインしたとたん、興奮しすぎて疲れ果てていたのか、そのまま眠りに落ちてしまった。

玉石垣の城で不明を恥じ、なが~い橋に軽く絶望

翌日はさすがに朝早く目が覚めて、お茶とパンを購入して袋井駅に移動。駅からはバスに乗る。最初は私以外にもう一人乗客がいたが、しばらくすると降りていった。20分ほどで七軒町というバス停に着く。本日の目的地、横須賀城はもう目と鼻の先だ。


横須賀城 横須賀城本丸下の石垣。美しく成形された石や、ごつごつした自然石を使った石垣を見慣れているとなんとも不思議な光景だ

この城は徳川家康が武田軍の高天神城(たかてんじんじょう)攻略の拠点として築かせ、山城から平城に移る過渡期の、中世と近世城郭の二つの特徴をあわせもつ平山城である。また横に長い城で、普通は一つしかない大手門が東西に二つ設置されて「両頭の城」と呼ばれていたという。残念ながらここも現在は宅地化が進んでいて、大手門の遺構は残っていない。しかし、横須賀城にはもう一つ「他に類をみない」「日本で唯一!」特徴がある。


横須賀城の西大手門跡 横須賀城の西大手門跡。400mほど離れたところに東大手門があった

本丸周辺の石垣が、玉石積みと呼ばれる丸い河原石を積み上げて造られたものなのだ。実は私は過去にここを訪ねていた。そのときは丸石の石垣をひと目見て、いかにも安っぽい、いい加減な復元だなと思い早々に立ち去ったのだが、あとから調べると本当にこういった造りの石垣が存在していたことを知り、自分の不明を恥じたことがある。


横須賀城 丸い河原石を利用しても崩れない、当時の技術力の高さを感じる

この玉石積みによる石垣は、一番高いところで10mほどの高さがある。じっくり見れば見るほど、やはりこれで強度に問題はないのか、今でもとても不思議である。

周辺を散策して横須賀城をあとにする。再びバスで袋井駅に戻ってきたのが12時半。最後に島田市にある蓬萊橋(ほうらいばし)を訪ねることにした。


蓬莱橋 全長897.4mの蓬莱橋の中央あたりまでくると、周りが360度開けて気持ちがいい

蓬萊橋はまるで時代劇の世界にタイムトリップをしたかのような景観で、ギネスブックにも世界一長い木造歩道橋として認定されている。と、頭では理解していたものの、実物を見て圧倒された。想像よりもはるかに長い! 実際に渡ってみたが、やはり気が遠くなるほど長かった。

橋の途中、「ど真ん中」と書かれている場所があった。ここで真ん中なの? と軽く絶望。さすが天下の大井川。川幅も広けりゃ流れも速い。


蓬莱橋 軽い絶望を味わった、長い長い蓬萊橋の「ど真ん中」

橋を往復したあとは、茶屋で濃厚な冷たいお茶と唐紅茶(からべにちゃ)のジェラートをいただいた。


唐紅茶のジェラート 蓬莱橋897.4(やくなし)茶屋の緑茶と唐紅茶のジェラートで一服

静岡駅に帰ってきたのは17時過ぎ。この2日間、しっかりと食事をしてないことに気づく。駅の構内でチーズ釜玉うどんを食べてお腹を満たし、旅を締めた。

さて今回使ったお金は?


残金511円!


著者紹介

佐竹 敦 (さたけあつし)

日本全国の即身仏&五重塔&三重塔&一之宮&滝百選&棚田百選&国分寺跡をすべて訪ね歩いた日本秘境探訪家。ひとり旅の達人。テレビチャンピオン滝通選手権出場。
主な著書に『この滝がすごい!』(中経出版)、『日本の滝めぐり』(自遊舎)、『新型コロナウイルス感染記』(アドレナライズ)など。
本人としてはいたってまじめな歴史オタクの墓マニア。

  • 写真/佐竹 敦
  • 本連載は、月刊誌『旅の手帖』2022年4月号からの転載です

旅の手帖 2022年4月号

『旅の手帖』は、旅の楽しさ、日本の美しさを伝える旅行雑誌です。皆さまのおかげで、今月で通巻600号を迎えました。

本連載が掲載されている『旅の手帖』2022年4月号の第1特集は「桜の城下町」。暖かくなって外に出るのが楽しくなるこの季節。春の陽気を感じながら、城下町を歩いてみませんか? 伝統工芸や食、風習など町の文化を満喫しつつ、美しい桜が見られる城下町へご案内します。
第2特集は「らくらくサイクリング」。小回りのきく自転車は旅の可能性を広げてくれる乗り物です。春うららかな風をきってサイクリングに出かけましょう。
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価格  650円(税込)
発売日    2022.3.10
サイズ/判型    A4変型判
雑誌コード    05907-04


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