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2022.07.08旅行トンカラリンと寂心(じゃくしん)さんのクス。ひとり旅の達人・佐竹敦が行く、15,000円で穴場旅【博多駅発、熊本県和水町・玉名市・熊本市の旅】

ロマンと不思議がいっぱい 熊本県和水(なごみ)町・玉名市・熊本市

日本の穴場スポットに行ってみたい。しかも安く楽しみたい。
そんな欲望のままに東へ西へ、一人でぶらりと旅立った。

今回は15,000円の予算で、博多駅から熊本県和水(なごみ)町・玉名市・熊本市へ。
教科書にも載っている、江田船山古墳とその内部の石棺。
用途不明、名前も不思議なトンカラリンとは。
そして、一本なのに一本と思えないクスに圧倒される…。
最後の収支報告まで、お見逃しなく!

古代ロマンと謎の遺跡に心を躍らす

本日は5時過ぎの博多駅発の列車で鹿児島本線をひたすら南下。熊本県の玉名駅に着いたのは約2時間後の7時過ぎだった。

駅前広場では、玉名市内の蓮華院(れんげいん)誕生寺にある日本一の大梵鐘(だいぼんしょう)だという「飛龍(ひりゅう)の鐘」の特殊プラスチック製のレプリカが出迎えてくれた。見た目にはプラスチック製とはわからないほど精巧で迫力満点。そのすぐそばには、最近ではすっかり見かけなくなった「悪書追放」の白ポストも。とても懐かしい。


玉名駅前の大梵鐘飛翔の鐘のモニュメント 玉名駅前にあった、大迫力の大梵鐘・飛龍の鐘のモニュメント

駅からはバスで和水町を目指す。ついウトウトとしていたら、菊水ロマン館前のバス停に到着。最初から最後まで貸し切り状態だった。ここから目指す江田船山(えたふなやま)古墳は、目と鼻の先にある。

江田船山古墳は、古墳好きでなくとも教科書にも載っているので、その名前くらいは知っている人も多いのではないだろうか。とはいえ、畿内で名の知られた天皇陵などと比べると取り立てて大きな古墳ではなく、全長77mと歩いてもあっという間に一周できるくらいの規模だ。


江田船山古墳 きれいに周囲が整備された前方後円墳の江田船山古墳

この古墳の名を全国に知らしめているのは、出土した75文字の銀象嵌(ぎんぞうがん)の銘文と菊花文と天馬の象嵌を施した長さ85cmの大刀(たち)だ。大刀の銘文は、埼玉県行田(ぎょうだ)市の稲荷山古墳から出土した鉄剣の金象嵌銘とともに、本格的な記録的文章としては日本列島で書かれた最古の例である。

銘にある「獲□□□鹵大王」を雄略天皇とする説が有力で、日本史の教科書などにもたびたび引用されてきたものだ。歴史の授業で習った場所に実際に足を運び、その空気にふれるというのはなんとも感慨深いものがある。

またこの古墳は立ち入ることができない天皇陵とは違い、前方後円墳の中に足を踏み入れることもできるのが、とても新鮮で驚きだった。古墳の頂上から下のほうを見下ろすと、自分が思わず偉い人になったような錯覚に陥ってしまう。また上から見ると古墳がどのような形になっているのかよくわかるのも面白い。

さらになんと、古墳の主体部には石棺保存室があり、ガラス越しに古墳内部の石棺を実際に見ることができるようになっていた。


江田船山古墳 江田船山古墳の石棺は湿度が高く、ガラスが曇っていて少し見づらい

この江田船山古墳の周辺は肥後(ひご)古代の森として整備されていて、ほかにもこぢんまりとしたいくつかの古墳がある。そして隣接している肥後民家村には茅葺(かやぶ)き屋根の古民家が数多く移設されていて、こちらも実に見ごたえがあった。まさに古きよき日本の原風景。のどかで穏やかな気持ちになって癒やされる。

続いて江田船山古墳から東南に約400m離れた、トンカラリンを訪ねた。この不思議な響きのトンカラリンは、トンネル・地下道型の遺構。いつ誰が何のために造ったのかよくわかっていない全長約450mの謎の遺構である。

その用途は不明ながら、明らかに人工的に造られたものであることには違いなく、石組みの隧道(ずいどう〔トンネル〕)や暗渠(あんきょ〔地下に埋設した水路〕)、さらには人がなんとか通れるくらいの高さ7mにもおよぶ自然の地割れなどを巧みに組み合わせ、時には地下に、時には地上にその姿を現しながらつながっている。


トンカラリン 暗渠の入り口。トンカラリンは何のために作られたのだろう

このトンカラリンは昭和50年代に、かの松本清張が現地調査をして「邪馬台国(やまたいこく)が記された『魏志倭人伝(ぎしわじんでん)』に出てくるシャーマニズムに関係した鬼道ではないか」と推論したことで全国的にその名が知られた。しかし現在、これが一体何であるのか科学的な謎解きはされておらず、まさにミステリーそのものである。


トンカラリン トンカラリンには、人一人が通れるくらいの掘り込まれた道のような場所も

気がつけば、ご飯も食べずに散策をして6時間余り。到着時にはまだ閉まっていた道の駅も開いていたので、弁当や総菜を買って昼食にし、再びバスで玉名駅に戻ってきた。

この日は玉名市内のスーパーで翌日の食料を大量に買い込み、せっかく来たのだからと玉名ラーメンを食べて早々に就寝した。


玉名ラーメン(桃苑) 熊本ラーメンのルーツの一つといわれる玉名ラーメンを堪能!

隣り合う神社と孤高のクスノキ

翌日は昨日と同じく始発列車で玉名駅の隣、肥後伊倉駅へ。駅から歩いて15分ほどのところにある、道を挟んで南北に北八幡宮と南八幡宮という2つの神社が鎮座する全国的にも珍しい伊倉南北八幡宮を訪ねた。

実際に行ってみると、境内は隣にあるのだが、向かい合っているわけではなく、北八幡宮の社殿が南を向いているのに対して、南八幡宮の社殿は西を向いていた。北八幡宮が一所懸命に求愛しているのに、南八幡宮に素っ気なくされているようで、思わず応援したくなってしまう。


伊倉南八幡宮の境内と北八幡宮の鳥居 伊倉南八幡宮。左奥に見えるのは伊倉北八幡宮の鳥居

2つの神社を隔てている道路は東西に走っていて、それなりに交通量も多い。それにしてもどういう理由で立ち並んでいるのだろうか? もとは一つの神社だったのだろうか? 中世の歴史が絡んでいるようだが、現地ではよくわからず謎を残したまま神社を去ることになった。


伊倉北八幡宮と南八幡宮の間の道路 南北の伊倉八幡宮の間を通る道。車通りも多いので歩くときには注意を

その後、植木駅へと移動。ここから目指す寂心さんのクスは歩いて約20分で到着。月並みな表現になってしまうが、この寂心さんはとにかく想像を絶するほどにデカかった! まずはその幹の大きさに度肝を抜かれ、さらに少し離れて見てもう一度度肝を抜かれる。


植木駅 空が広く、のんびりとした風景の中にある植木駅

離れて見ると、木々が鬱蒼(うっそう)と生い茂った森や林のように見えるのだ。これがたった一本の木とはおそれ入る。高さは29mであるのに対し、枝張りは50m以上もあるらしい。それでも地元の人が話すには、昔に比べると樹勢はかなり弱くなってしまったとのことである。そのうえ、これだけの大きさなので仕方ないのかもしれないが、台風が来ては枝が折れ、また大きくなっては台風が来て枝が折れの繰り返しらしい。


寂心さんのクス 一本の木だと思えないほど、枝を大きく広げて張る寂心さんのクス

寂心さんのクスはポツンと一本だけ大地に根を張って、この圧倒的な景観を作り出していた。


寂心さんのクス 寂心さんのクスを支える、地面をわしづかみするような根

ゆっくりしていたいところだったが、気がつけばいい時間になっている。急いで東小浜駅へと向かった。

さて今回使ったお金は?


今回使ったお金の表

残金1,851円!


著者紹介

佐竹 敦 (さたけあつし)

日本全国の即身仏&五重塔&三重塔&一之宮&滝百選&棚田百選&国分寺跡をすべて訪ね歩いた日本秘境探訪家。ひとり旅の達人。テレビチャンピオン滝通選手権出場。
主な著書に『この滝がすごい!』(中経出版)、『日本の滝めぐり』(自遊舎)、『新型コロナウイルス感染記』(アドレナライズ)など。
本人としてはいたってまじめな歴史オタクの墓マニア。

  • 写真/佐竹 敦
  • 本連載は、月刊誌『旅の手帖』2022年8月号からの転載です

旅の手帖 2022年8月号

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価格  650円(税込)
発売日    2022.7.8
サイズ/判型    A4変型判
雑誌コード    05907-08


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