白壁、鳥居、棚田、巨岩をめぐる福岡景勝紀行。福岡県うきは市・東峰村
日本の穴場スポットに行ってみたい。しかも安く楽しみたい。
そんな欲望のままに東へ西へ、一人でぶらりと旅立った。
今回は10,000円の予算で、博多駅から福岡県うきは市・東峰村へ。
160軒もの伝統的な建造物、白壁土蔵造りの町並み。
岩に寄りかかられているような岩屋神社の本殿など福岡県の絶景がここにある。
最後の収支報告まで、お見逃しなく!
山の中腹から真っすぐ延びる絶景参道
福岡県は、縁もゆかりもない人間からすると、北九州市~博多(福岡市)と久留米市、有明海と接する柳川あたりは何となくイメージが浮かぶものの、それ以外の地域のことはよくわからない……のではないか?
というわけで今回は、福岡県中部にあって大分県と接するうきは市と東峰(とうほう)村を訪ねてみた。
博多から久留米を経由して、まずは白壁の駅舎に駅前の円筒形のポストが印象的な筑後吉井駅で下車。
筑後吉井は、江戸時代に有馬藩の城下町久留米と天領日田(ひた)とを結ぶ豊後(ぶんご)街道の宿駅として、また近郊の農山村を商圏とする在郷町として栄えた歴史がある。
現在も白壁土蔵造りを主とした約160軒もの伝統的な建造物が残る。一方、おしゃれなカフェやスイーツ店なども点在している。
美しく洗練された現代的で繊細な佇まいと、年月を積み重ねてきた重厚感という、本来なら相反するものが何の違和感もなく調和している町である。
その後、隣のうきは駅へと移動して、目指したのは浮羽稲荷神社。駅から神社の鳥居が見え、神社へと真っすぐに続く道を歩き続ける。
この神社は城ヶ鼻公園内の山の中腹に立ち、山の斜面には神社に向かって91基の鳥居が立ち並ぶ。
このどこまでも続いているかのような赤い鳥居の参道を上りきって振り返ると、一気に展望が開けて眼下に筑後平野を見渡せる。
その景観の中で、これまで歩いてきた道が気持ちいいくらい一直線に連なっている。これぞまさしく絶景である。
日が暮れてくると、鳥居がライトアップされた。闇夜の中に鳥居が浮かび上がる眺めは、幻想的かつ神秘的だった。
見どころてんこ盛りの岩屋神社
翌日の朝、筑後大石駅を出て大分県の夜明(よあけ)という実に縁起のいい名前の駅に向かい、そこからバスに揺られること1時間余り、筑前岩屋に到着。ここからは徒歩で日本の棚田百選の一つ、竹地区の棚田を訪ねた。この竹地区には約400枚の棚田があり、そのすべてが石垣で補強され、迫力があって壮観である。
また棚田の中央部には展望台が作られており、ここから、360度棚田に囲まれた景観を楽しむことができる。これだけの広大な棚田を切り拓いた先人たちの汗と努力には、ただただ頭が下がる。この竹地区の南側にある岩屋公園の一帯は、福岡県の天然記念物に定された巨岩・奇岩が林立している山岳地帯だ。かつて修験道の聖地として信仰されていたところである。
現在も山全体が岩屋神社という神社の境内地となっており、多くのお堂がある。
国の重要文化財に指定されている本殿は、権現岩という大岩の窪みに建てられている。一見すると、本殿が大岩にのしかかられ、大岩が倒れないように頑張って支えているようにも見える。
同じく国の重要文化財で境内社の熊野神社は、天狗が蹴って穴を空けたという熊野岩の険しい岩場の窪みに建てられている懸造(かけづく)りの社殿だ。よくあんなところにお堂を作ったものだと感嘆する。
ほかにも、樹齢600年とも700年ともいわれるご神木のイチョウや手掘りの洞門、明治時代の廃仏毀釈で打ち壊された首なし地蔵群(千体地蔵・五百羅漢)、“針の耳”と呼ばれる、人が一人なんとか通れる岩の割れ目など、見どころを挙げたらきりがないほどだ。
筑前岩屋からは再びバスで1時間ほどかけて添田(そえだ)に向かう。その道中でも、竹地区の棚田に匹敵するような見事な石積みをそこかしこに見かける。ちなみに夜明~筑前岩屋~添田間は日田彦山(ひたひこさん)線にあたるが、2017年7月の九州北部豪雨の影響で不通区間となっている。
添田駅からは日田彦山線で田川後藤寺駅まで移動。田川後藤寺駅はほかに後藤寺線、平成筑豊鉄道の糸田線、全部で3つの路線が乗り入れる駅だ。昔ながらの昭和レトロな雰囲気を色濃く残した駅だった。思えば昔は地方のターミナル駅といえばみんなこんな感じだったと、少し懐かしくなった。
後藤寺線は、鉱山の敷地内となる船尾(ふなお)駅から筑前庄内駅の区間を抜け、新飯塚駅へ。 そこから乗り換えた筑豊本線・篠栗(ささぐり)線の車両は、座席の向きを片手で簡単に変えられる車両だった。座席部分はそのままで背もたれの部分だけが前後に素早く移動できる。
終点の博多駅に着くと、入れ替わりに乗り込んできた乗客が一斉に背もたれ部分を動かして座席を進行方向へと変更していく。瞬間芸のようなものを目にした感じがした。
さて今回使ったお金は?
残金211円!
著者紹介
- ※写真/佐竹 敦
- ※本連載は、月刊誌『旅の手帖』2023年2月号からの転載です